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【ファンドアナリストが解説!】「NISA国内株式枠」の可能性を真剣に考えてみた

2025/09/02 07:00

今年7月に発行された河野龍太郎、唐鎌大輔両氏の著書『世界経済の死角』(幻冬舎刊)を一気に読んだ。世の中に出回っている対談本はお気軽な内容のものも多いが、その点、本書は日本を代表するエコノミスト2人による“ガチ”の意見のぶつけ合いである。内容も為替からAI覇権争い、イノベーションの行方など多岐にわたり、最後まで惹きつけら

今年7月に発行された河野龍太郎、唐鎌大輔両氏の著書『世界経済の死角』(幻冬舎刊)を一気に読んだ。世の中に出回っている対談本はお気軽な内容のものも多いが、その点、本書は日本を代表するエコノミスト2人による“ガチ”の意見のぶつけ合いである。内容も為替からAI覇権争い、イノベーションの行方など多岐にわたり、最後まで惹きつけられた。皆様にも「晩夏の一冊」として読むことを薦めたい。

もちろん、書籍全般に対する論評をする資格など筆者にはない。ただ、この本の中で、唐鎌氏が話に出した、新NISA枠内における「日本株の優先枠」については、自分の専門分野に絡む部分ということもあり、一緒になって考えてみたいと思った。

「NISA国内株枠」はどんなアイディアか?

NISAの「日本株の優先枠」について唐鎌氏は「賛否ある話で、丁寧な議論が必要な論点」(285ページ)としている。つまり、何が何でも実現させるべきだという主張をしているわけではない。あくまで「円安の制御」を主目的とした場合の処方箋の1つとして、この案を紹介している。 「通貨安は国民生活を広く蝕む相場現象であり、深刻な問題」(286ページ)であるためという。

NISAを通じた外国株投信への資金流入が為替相場に与える影響は無視できないだろう。特に「オルカン」の愛称で知られる「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」をはじめとする全世界株のインデックスファンドは積み立て購入でほったらかしにされる傾向が強く、定期的な円売り・外貨買いのフローが発生するためだ。

筆者は為替の専門家ではないので、NISAを通じた外貨建て資産への投資が、どれくらい為替相場にインパクトがあり、「NISA国内株枠」の採用が、それがもたらす弊害を考慮しても、どの程度経済的にプラスの効果が得られるのかは正直、分からない面もある。ただし、限界はあるものの、筆者なりにこの議論をある程度、掘り下げていくことはできると考えている。

現在の「成長投資枠」「つみたて投資枠」の一部を非課税枠にすべきか

まず、現行NISA制度についておさらいをしておこう。NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があり、年金投資枠はつみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円になっている。それぞれの枠内で買える商品に制限があり、つみたて投資枠で購入できるのは、金融庁の基準を満たした、長期・積立投資にふさわしい投資信託のみで、成長投資枠では毎月分配型などを除いた多くの投資信託に加え、個別株式の購入も可能だ。

投資信託に絞ると、オルカンやS&P500のインデックスファンドなど、外貨建ての商品にばかりにお金が集まっているようにも思えるが、個別株を含めて考えると少し異なる景色が見えてくる。2024年のNISA成長投資枠における、商品種類別の買付額の分布をみると、個別株が全体の43.5%に達している。

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この中には米国の個別株なども含まれる。もっとも、QUICKがインターネット証券会社の提供データを元にまとめたNISAを通じた個別株買付額・預かり資産額のランキングなどをみると、上位に入ってくる米国株はエヌビディアくらいである。つまりNISAを通じた個別株投資の大部分は日本の個別株だとみられる。NISAを通じた投資が「極端に外貨建て資産に偏っている」とは必ずしも言えない状況が浮き彫りになるわけだ。

しかし、無視できないのは、2024年以降の新NISAスタートを機に、旧NISAと比べ、制度を通じた金融商品への投資の総額自体が大きくなっている点だろう。これにより、外貨建て資産に向かうボリュームが一気に膨らんでいる。この部分が為替を円安に誘う原動力になっていると考えられる。だとすれば、現行のつみたて投資枠と成長投資枠の一部を半ば強引でも国内株専用にして、外貨建て資産への投資を抑止するくらい制度に手を加えなければ、「円安の制御」という目的は果たせないことになるだろう。

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日本株投信は「外国株投信×0.8」より期待リターンは大きいか?

個別株投資の動機をすべて「趣味」と決めつけることは適切ではないが、趣味性の強い投資行動であるのは、おそらく間違いではない。だとすれば、少額から投資でき、積み立て投資が可能な投資信託を資産形成の主軸に位置付けるのは自然だ。そもそも「つみたて投資枠」では個別株に投資はできない。NISAの国内株枠については「国内株投信枠」としてしまう方が各方面の理解が得られやすいし、自然とも言える。今回はその前提で話を進めたい。

課税口座の場合、投信の売却益や普通分配金には20.314%の税金がかかるが、非課税口座の場合、これがかからなくなる。敢えて分かりやすくするために、ここからは税率を20%と丸めて考えたい。また、投信のリターンを考える際、分配金を再投資し、複利効果を得たうえでの売却益なのか、個別元本を上回った部分の普通分配金なのかは分けて考える必要が本来はあるが、ここでは、分配金再投資ベースのリターンを「期待リターン」として単純化する。「NISA国内株投信枠」が投資家に使われるためには、以下の認識が必要となる。

日本株投信の期待リターン>外国株投信の期待リターン×0.8

仮に上記の認識を投資家が持っていないのであれば、「国内株投信枠」はあまり使われない可能性がある。なぜなら、非課税枠で国内株投信に投資するよりも、敢えて課税枠で外国株投信に投資した方が、高いリターンが期待できるためだ。実際どうなのだろう。QUICKの投信分類に基づいた、投信のリターンで算出した指数で分析してみた。

先進国株投信(為替ヘッジをしないタイプ)と国内株投信のパフォーマンスについて、2000年以降の超長期で比べてみると、年率リターンは先進国株投信=6.26%、国内株投信=3.84%となった。先進国株投信の税引き後年率リターンは5.01%。それでも、国内株投信の非課税年率リターンよりも1%以上高い。つまり、超長期で見ると外国株投信に大きな優位性があることになる。

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ただ、過去10年(2015年7月末~2025年7月末)でみると、年率リターンは先進国株投信=10.22%、国内株投信=8.15%となり、税引き後の先進国株投信の年率リターン(8.18%)は国内株投信の非課税リターンとほぼ同水準になる。つまり、足元10年でみれば、非課税の国内株投信は税引き後の先進国株投信に対して、十分な競争力を持つことになる。

無論、これは過去の実績であり、将来に当てはまるものではないし、もう少し精緻な分析が必要なことは言うまでもない。ただ、ドライに数字だけを見ると以上のような結果になるので、ひょっとしたら「NISA国内株投信枠」は、そこまで大きな効果が得られないのかもしれない。そもそも言わずもがなだが、シンプルに自己の利益を最優先に考える個人投資家の不満を誘発する可能性は否めないだろう。

個人投資家のコスト意識は非常に高い。特に税金という大きなコストには敏感になるとみられ、「NISA国内株投信枠」を優先的に使う人は少なくはないだろう。それでも、以上のような複雑な状況を踏まえると、実現には政治的な決断が重要になってくるのではないかと感じる。

「円安の是正」という文脈で考えるのであれば、「円安で生活コストが上がり、国民は悲鳴を上げている」という声が政治の世界で大きくなる必要があるだろう。また、「日本の経済を強くする」というスローガンのもと、日本企業の収益力向上に向けたメッセージの発信と具体的な施策をあわせ、そこにNISAの「国内株枠」を盛り込んでいくという方向性も考えられる。つまり、日本株の魅力向上策をセットにする案だ。

GPIFと足並みをそろえた議論も

NISA国内株枠」は、目的を明確にしたうえで、その副作用と経済全体のメリットを吟味したうえで、ようやく実現にこぎつけるような、難易度が非常に高い政策なのかもしれない。筆者個人としては、この案の実現に向けては、「ホームカントリーバイアス」に関する議論を避けては通れないと思っている。これは1990年代から続く、資産運用における永遠のテーマと呼んでも良い。ホームカントリーバイアスを正当化するか否かで最も重要視される論点は「為替リスクをどの程度とるべきか」だろう。

老後に向けた資産形成のために様々なリスク資産に投資している人は増えている。もしも、日本で老後を過ごすことが前提であれば、円を使って生活をするのだから、資産形成過程においても、為替リスクはあまり大きくとらない方が良いという考え方もある。この点、運用資産の約50%を円建て資産としている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と足並みをそろえた議論も有効になってくるのかもしれない。

代替案①「NISA為替ヘッジ枠」案

せっかくなので、「NISA国内株枠」の代替案も考えてみたい。筆者が最初に思いついたのが「為替ヘッジ枠」案だ。「国内株枠」の中で為替ヘッジ付の外国株投信も認めるという形でも良いだろう。この案であれば、国際分散投資の原則を崩すことなく、円安への圧力をある程度かわすことができると考えられる。

為替ヘッジには為替予約という取引が使われる。例えば、将来の米ドルレートを固定する為替予約取引を受けた銀行などは、まず、足元のマーケットで、将来の決済に備えて、米ドルを調達して、それを売って円に換えるというドル売り・円買いのカバー取引を行う。つまり為替ヘッジを求める投資が増えるほど、市場に円買い圧力をもたらし、円安抑制にもつながり得るというわけだ。

実際、今年の春以降、各方面で、世界中の投資家が米ドルの為替ヘッジ比率を高めていることがドル安の原因だとする報道が配信された。もちろん、NISAに起因した為替ヘッジに絡む取引が、どの程度、為替相場に影響するのかは微妙な面はある。加えて、対米ドルで年4%程度と、ヘッジコストが非常に高い現状で、こうした案が受け入れられるのかといった現実的な問題もあるだろう。

とはいえ、本来、ヘッジコストは為替変動リスクとトレードオフで考えるべきもので、ヘッジコストが高い足元の状況だけを持って判断すべきではない。単純に円が売られ、外貨が買われるという状況の歯止めのためには、「国内株投信枠の中で為替ヘッジありの外国株投信も認める」という策も検討に値するのではないかと筆者は考える。

代替案②「国内株投資インセンティブ」案

もう一つについては荒唐無稽と思われるかもしれないが、こんな案も考えられる。非課税枠の中で、ある割合を超えて、国内株投信に投資した人に対し、「翌年以降に使える国内株投信の非課税枠」をプレゼントする案だ。

実現性を考えた場合、制度が恐ろしく複雑になるとみられ、システム構築の問題なども出てくるだろう。その上、制度設計の「いやらしさ」に対する拒否反応もハードルになるかもしれない。ただ、実現すれば強力な国内株投資への動機付けになるのはおそらく間違いない。

海老澤 界/松井証券 ファンドアナリスト

松井証券ファンドアナリスト 投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説 <略歴> 横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト