■要旨 ポイント解説:年金額の分布推計が登場した経緯・内容・課題 本稿では、2024年の将来見通しで初公表された年金額の分布推計について、経緯と内容を確認し課題を考察する。 ■目次 1 ―― 先月までの動き 2 ―― ポイント解説:年金額の分布推計が登場した経緯・内容・課題 1|経緯 :平均的な専業主婦世
■要旨
ポイント解説:年金額の分布推計が登場した経緯・内容・課題
本稿では、2024年の将来見通しで初公表された年金額の分布推計について、経緯と内容を確認し課題を考察する。
■目次
1 ―― 先月までの動き
2 ―― ポイント解説:年金額の分布推計が登場した経緯・内容・課題
1|経緯
:平均的な専業主婦世帯に加え、2004年から所得別なども公表。
しかしボリューム感が不明
2|内容:就業進展で女性の年金額が充実
3|課題:詳細結果や研究用データの公開
* 年金改革ウォッチは2013年1月より連載。2023年4月より、原則毎月第2火曜日に連載。
7月31日の年金数理部会では、2024年に公表された将来見通しの推計方法が報告された。本稿では、2024年の将来見通しで初めて公表された年金額の分布推計について、登場した経緯と公表された内容を確認し、今後の課題を考察する。1|経緯:平均的な専業主婦世帯に加え、2004年から所得別なども公表。しかしボリューム感が不明
「年金制度は専業主婦世帯を念頭に設計されている」や「専業主婦世帯は減っており、年金制度は時代に合わなくなっている」という意見を目にする機会がある。確かに、1985年の改正以前は会社員の妻は夫の年金で暮らすことが想定された仕組みになっており、その制度の下で平均的な給与水準の人が高齢期に受け取る年金額が制度改正の目安とされていた。1985年の改正では、夫の年金の一部が妻名義の年金として分割され、制度改正の目安となる年金額は改正前の目安に相当する「夫婦2人分の基礎年金と平均的な給与水準の夫の厚生年金の合計」となった(図表1)。2004年の制度改正では、それまで目安とされていた年金額や給付水準(所得代替率)の計算方法が法定された。

しかし、これらは仮定された所得や加入期間に基づく年金額であるため、低年金者の割合などのボリューム感が分からないという問題があった。そこで、年金数理部会は2016年に年金額の分布推計について必要性を指摘し*3、2020年の改正に向けた国会審議では同指摘の実現について政府に検討を求める附帯決議が採択された*4。
*1 女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(2001)「報告書~女性自身の貢献がみのる年金制度」p.25-29,78。
*2 社会保障審議会年金部会(2003)「年金制度改正に関する意見」p.26。
*3 社会保障審議会年金数理部会「平成26年財政検証・財政再計算に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)」、p.218。
*4 社会保障審議会年金部会(2024.7.3) 資料4-2 表紙。

2024年に初めて公表された分布推計では、(1)現役時代の加入類型、(2)厚生年金の加入期間、(3)65歳時点の年金額について、性・世代別の比率や平均値が示された。また、当時(改正前)の制度に基づく推計に加えて制度改正の素案(オプション試算)を反映した推計も示され、今年5月には国会へ提出された改正法案を反映した推計も示された。


3|課題:詳細結果や研究用データの公開
従来も専業主婦世帯以外が考慮されていたが、分布推計では様々なパターンの年金額をボリューム感とともに把握できるため意義が大きい。ただし、これまでに公開された分布推計の結果は、全体的な傾向の情報にとどまっている。制度改正(案)の対象者に絞った詳細な結果などが示されると、今後の制度改正の議論により有用だろう。
また、今回の推計は、将来の個人の就労や給与の状況を推計する枠組みとして、年金以外での活用も期待される。現在はプログラムの実行に必要なデータの一部が個人情報への配慮から公開されていないが、公的統計の個票と同様の制約の下、学術研究などで活用可能になることを期待したい。
