<前編のあらすじ>
来年65歳になる隆二さん(仮名、64歳)は、15歳年下の妻・真奈さん(仮名、49歳)と大学生の息子・淳弥さん(仮名、20歳)との3人暮らし。退職を控え年金生活への不安を抱える中、配偶者加給年金として15年間で600万円が加算されることを知り安堵していました。
しかし、ここ数年で年金制度改正が議論されていると知り動揺した隆二さん。結果的に配偶者加給年金は廃止でなく縮小されることになりましたが、隆二さんは夫婦の老後資金への影響が気になり年金事務所に相談に駆け込みます。
●前編:【定年直前で崩れた老後資金計画…15歳年下の妻を持つ64歳男性が、「配偶者加給年金の縮小」に感じた焦り】
年金事務所で判明した驚きの事実
隆二さんは年金事務所の窓口で、「来年、2026年に65歳になっていよいよ年金生活が始まるのですが、15歳下の妻がいるなか、配偶者加給年金が1割減らされると聞きました」と加給年金縮小のニュースを聞いて慌てて相談に来たことを伝えます。
しかし、窓口の職員から「大丈夫ですよ、安心してください。確かに配偶者加給年金を縮小する年金制度改正法が成立しましたが、隆二さんの場合、年40万円、15年で600万円が加算されます。今の改正前の制度が適用されます」との回答がされました。
どうやら隆二さんの場合は、加給年金は1割減にはならないようです。1割減の対象にならない理由はどこにあるのでしょうか。
改正は2028年4月、経過措置がある
配偶者加給年金は65歳で老齢厚生年金を受給できるようになった当時、生計を維持されていた65歳未満の配偶者がいる場合に加算されます。配偶者加給年金が年間40万円から年間36万円へと1割減となる年金制度改正が施行されることになります。隆二さんが改正後の制度の対象になると、年間4万円程度、15年では60万円少なくなる計算で、その影響は大きいものとなるでしょう。
しかし、この配偶者加給年金の縮小は2028年4月施行となっています。この改正後の制度の対象となるのは、2028年4月以降に配偶者加給年金が加算され始める場合となり、そうした人が年間で40万円ではなく、1割減の36万円での加算となります。
隆二さんが65歳になるのは2026年で、改正前からその加算が始まることになります。その場合、改正後の1割減の対象とならず、経過措置によって現行制度が適用されることになります。つまり、改正前の期間(2028年3月以前)はもちろん、改正後の期間(2028年4月以降)についても引き続き年間40万円が加算されることになります。そのため、隆二さんは15年間で600万円の加算が見込めることになります。
改正の施行日や経過措置に注意
隆二さんは「よかった、このまま今の加算額で加算されるなら安心だ。2028年4月から急に加算が1割減っても困ることになるし、助かる」と安堵します。そして、加給年金のことを含めた65歳以降の年金全般についても確認でき、これからの年金生活に備えられそうでした。
2025年6月に成立した年金制度改正法で、改正内容によって施行日が異なり、今回の配偶者加給年金のように施行日がまだ先のものもあります。改正が施行されるにあたって、現行制度の適用を受けている人には不利にならないように経過措置も設けられていますので、自身に関係しそうなものがあって気になる場合は年金事務所で一度確認してみると良いでしょう。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。