オープンAIも未上場
いまや、上場株式だけを見ていては、世界の真の成長を捉えることは難しくなってきている。
未上場のまま大きく成長し、評価額が10億ドル以上に到達した企業は「ユニコーン」と呼ばれる。さらに100億ドル以上は「デカコーン」、そして近年は、生成AIの急成長を背景に、1000億ドル(約15兆円)を超える「ヘクトコーン」と呼ばれる企業まで登場している。
オープンAI(OpenAI)、アンソロピック(Anthropic)、データブリックス(Databricks)といった企業は、いずれもAI時代のインフラを支える存在でありながら、依然として未上場である。彼らの成長の果実は、証券取引所の外側で膨らんでおり、上場企業だけに着目していても、こうしたリターンにはアクセスできないのが実態になりつつある。
この現象は、上場時の時価総額が小さすぎて、大口投資家のスコープには入りにくい「小粒上場」が課題となっている日本市場とは対照的である。一方米国では、十分な事業成長を遂げるまであえて上場を先送りにする企業が増加しており、その間の成長によるリターンは、未公開株に投資した一部の投資家のみが享受できるのだ。
未公開市場へのアクセスが、投資家の分岐点になる時代
米国企業における未上場段階での成長は、AI企業に限ったものではない。宇宙、クリーンテック、次世代原子力など、今後10年のイノベーションを牽引する有力企業の多くが、未上場のまま巨額の資金調達と事業成長を遂げている。
その背景には、米国の大手ベンチャーキャピタル(VC)の存在がある。米国の市場調査会社シービーインサイツ(CB Insights)が選出するVCの全米トップ20には、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、a16z)、GV(旧グーグル・ベンチャーズ)、アルムナイ・ベンチャーズ(Alumni Ventures)などが含まれており、これらのVCは、創業初期から有望企業に出資し、その成長を長期にわたって支えてきた。
インデックス投資だけでは捉えきれない世界
日本では、長期・積立のインデックス投資を中核とする資産形成が推奨されてきた。その堅実さは否定されるものではないが、現在の市場環境では、上場株のインデックス投資だけでは捉えきれない世界が広がっている。
かつてのGAFAMのように、上場後に急成長する企業は今や少数派である。むしろ今後のGAFAM候補は、未上場のうちに急成長を遂げ、VCファンドへの投資を通じて機関投資家のポートフォリオに組み込まれ、株式公開を迎える可能性が高い。
こうした状況において、信頼できるVCを通じて未上場企業に早期から投資できるかどうかが、個人投資家にとっても資産形成における分岐点となりつつある。
「投資の格差」を縮めるには
未公開市場の恩恵を享受できるのは、これまで一部の機関投資家や超富裕層に限られてきた。しかし近年、日本でも個人投資家が一流のVCを通じて未公開企業にアクセスする選択肢が生まれつつある。
これは単なる資産クラスの多様化にとどまらない。“インデックスの外側”にあるリターンの源泉に、公平にアクセスできるかどうか──それが、今後の日本における資産形成を左右するひとつの鍵になるはずである。
木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO
野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。