確定拠出年金(DC)では、ターゲットイヤーファンドの存在感が増しています。
2018年5月から、ターゲットイヤーファンドはシリーズで1本と数えることが明確化され、使い勝手が改善しました。そのため、2018年5月以降にスタートした企業型DCプランでは、そのほとんどでターゲットイヤーファンドがラインアップされています。
加入期間が長くても、運用商品変更をする人は少ない
ターゲットイヤーファンドは、ご自身の年齢に合わせたものを1本だけ保有すれば、DC資産の受け取りまで何もしなくてもいいように考えられています。
その基本的な考え方は次のようなものです。
年齢を重ねるとともに、リスク性資産(株式などの比較的、価格変動が大きい資産)への配分比率を下げていくことは、資産運用において一般的な考え方です。
若いころには、資産額も少なく運用期間が長いことからリスク性資産を多めに保有し、年齢とともに株式の比率を下げて債券の比率を上げるというものです。
ところが現実的には、DC加入者で自ら運用商品を変更する人は多くありません。運用商品の償還や除外を経たプランを除くと、商品変更の経験者は3割程度です。
実際、運用商品の選択状況を「よく覚えていない」と回答する人は24%、「わからない」とする人も25%を占めています。同様に個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)加入者で「よく覚えていない」人は21%、「わからない」とする人も20%となっています(※1)。
DC制度開始から20年超となり、加入期間が10年を越える人も増えていますが、DC資産をほったらかしにしている人が多いのが現実です。そして、ほったらかしにするのであれば、定期預金等の元本確保型では長期間のインフレリスクに対応できないということも共通認識となりつつあります。
※1 野村アセットマネジメント資産運用研究所「確定拠出年金に関する意識調査2024」
米国401(k)加入者の68%が保有するほど普及
米国の確定拠出年金では、ターゲットデートファンド(=ターゲットイヤーファンドと同義)が普及しています。
米国では年金保護法が2006年に発効され、翌年には401(k)プランの「自動化」が可能になりました。自動化は従業員が「非加入」の意思表示をしない限り、加入者とする仕組みです。自動化以前は、401(k)を活用したい人だけが加入者だったため、運用商品の選択ができる人が中心でした。しかし「自動化」によって自ら運用商品を選べない人が増えることが想定されました。そのため多くのプランが、運用商品を選ばなかった場合に購入する運用商品(デフォルトファンド)として、ターゲットデートファンドを設定しました。
その結果、米国401(k)加入者の68%がターゲットデートファンドを保有し、401(k)全体の資産の38%がターゲットデートファンドとなっています(2022年末)(※2)。
また、英国では2008年の年金法により決まり、2012年より導入されたNEST(National Employment Savings Trust)でもターゲットイヤー型がデフォルトファンドに設定されています。
日本でも、2018年5月から「指定運用方法」が法定されました。最初の掛金拠出から一定期間経過した後に運用商品を選んでいなければ、規約で定めた運用商品を加入者本人が指定したとみなすことができる仕組みです。
企業型DCの指定運用方法は49%の規約で設定されており、そのうちの64%は元本確保型商品、残りの36%が投資信託になっています。しかし、近年、指定運用方法を投資信託に変更する規約も徐々に増えてきています(※3)。
なお、個人型DC(iDeCo)では、指定運用方法を選定しているプランの約8割において投資信託が指定運用方法として選定されており、うち6割はターゲットイヤーファンドとなっています。
※2 ICI米国投資信託協会「2025 INVESTMENT COMPANY FACT BOOK」
※3 金融庁「プログレスレポート2025」金融庁
国内外の株式と債券を組み合わせたバランス型投資信託
日本のDCで活用されるターゲットイヤーファンドは、国内外の株式や債券、不動産などを組み合わせたバランス型投資信託に区分されます。
バランス型投資信託は分散投資が簡単にでき、リバランス(運用商品の配分割合を一定に保つ方法)も組み込まれている点が魅力です。しかし、ターゲットイヤーファンド以外は配分固定(たとえば株式の割合が70%と一定のもの)のため、年代に応じた配分変更を加入者自身が行う必要があります。
ターゲットイヤーファンドであれば、年齢が上がるにしたがってリスク性資産を抑えた運用に自動で切り変わっていくので、年齢が上がっても株式割合が高いまま(その結果、例えば〇〇ショックなどによる急落をDC資産の受け取り直前で経験する)ということなどを一定程度、回避できます。
ただし、実際のターゲットイヤーファンドをみると、運用会社によってかなりの違いがあります。ターゲットイヤー到達後に償還するかどうかという違いのほかに、リスク性資産の組み入れ比率や逓減方法、ターゲットイヤー到達後の運用の有無などがあります。
運用期間が長いものから短いものを並べてみると、時間の経過とともに変化するリスク性資産の比率を推測できるので、一例を挙げてみます。
【A社の場合】
2070……株式割合70%
2030……株式割合30%
【B社の場合】
2070……株式割合80%
2025……株式割合5%
【C社の場合】
2070……株式割合90%以上
2025……株式割合40%
ターゲットイヤーファンドは「60歳を迎える年」で選ぶ
運営管理機関として投資教育をするにあたって、運用商品の推奨はできませんが、ターゲットイヤーファンドであれば目標年が分かれば、自動的に買うべき投資信託が決まってきます。
たとえば、2030年に60歳を迎える人(1970年前後生まれ)は、2030年をターゲットイヤーとした投資信託が当てはまります。多くの場合、投資信託の名称の末尾に「2030」などと数字が付いているので、ご自身のターゲット年と合致するものを選ぶといった具合です。
企業型DCでは、ターゲットイヤーを10年刻みで組み入れているプランもあります。その場合は、保守的に考えるのであればターゲットイヤーが早い方を選び、逆にリスク性資産を多めに考えるのであればターゲットイヤーが遅い方を選ぶということになります。たとえば1985年生まれの人が保守的に考えるのであれば2040、リスク性資産を多めにするのであれば2050となります。
iDeCoでこそターゲットイヤーファンドの真価が発揮される?
ターゲットイヤーファンドはNISAのつみたて投資枠ではあまり見かけない投資信託です。
DCとNISAの大きな違いは、「途中で換金して使えるかどうか」です。
DCは原則として60歳までは引き出せないため、いったん加入したら運用が続きます。長期の運用であるという点がターゲットイヤーファンドを安心して保有し続けられることの素地ともいえます。
一方、企業型DCの場合、中途退職とともに資格喪失して投資信託をいったん売却ということも考えられます。
そのため、ターゲットイヤーファンドを活用するのであればiDeCoで使い、企業型DCではよりリスクの高い外国株式型やREITを選ぶ(逆にリスクを抑えるために元本確保型にする)といった利用方法もあるかもしれません。
企業型DCとiDeCoを併用しやすい環境が整いつつあります。iDeCoを選ぶ際に、ターゲットイヤーファンドの特徴から見てみるというのも一つの考え方かもしれません。
津田 弘美/野村證券 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。