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投資信託で「儲けた」「損した」顧客が多い金融機関は? 共通基準の「見える化」を金融庁が要請【250社最新】

2025/10/07 12:00

投資信託の共通KPIで運用損益が「見える化」 投資信託は金融機関によって取り扱いのラインアップが異なる。個人投資家の中には運用成績の良い商品を取りそろえる金融機関がどこなのかを知りたい人もいるだろう。 各金融機関の顧客が投資信託でどれだけ損失を出しているのか、あるいは収益をあげているのか。それが分かる指標が投資信託

投資信託の共通KPIで運用損益が「見える化」

投資信託は金融機関によって取り扱いのラインアップが異なる。個人投資家の中には運用成績の良い商品を取りそろえる金融機関がどこなのかを知りたい人もいるだろう。

各金融機関の顧客が投資信託でどれだけ損失を出しているのか、あるいは収益をあげているのか。それが分かる指標が投資信託の共通KPIだ。金融庁が2025年9月10日に発表した最新結果を参考にしてみよう。

投資信託の共通KPIには主に以下の3つがある。

1. 運用損益別顧客比率…投資信託を保有している顧客が購入時からどれくらいのリターンを得ているか

2. 投資信託の預り残高上位20銘柄のコスト・リターン…金融機関ごとの預かり資産残高トップ20銘柄のコスト(※1)とトータルリターン(※2)の関係

3. 投資信託の預り残高上位20銘柄のリスク・リターン…金融機関ごとの預かり資産残高トップ20銘柄のリスク(価格変動の大きさ、※3)とトータルリターンの関係

※1 販売手数料率の5分の1と信託報酬率の合計値 ※2 過去5年間の基準価額の月次騰落率の年率換算 ※3 過去5年間の基準価額の月次騰落率のばらつき

これらの指標によって金融機関ごとに取り扱っている投資信託のパフォーマンスや投資効率などが比較しやすくなる。

投資信託の運用損益別顧客比率―プラスリターンの顧客は1年前より減

投資信託を運用する顧客の損益は1年前と比較してどう変わったのか。調査結果を見てみよう。

投資信託の運用損益別顧客比率

投資信託の運用損益別顧客比率
出所:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析」

直近の結果は上右図であり、各業態の顧客が持っている投資信託の損益を表している(25年3月末時点)。上左図の1年前と比較すると、どの業態でも赤色系の帯が目立つようになったことが分かる。これは運用損益がマイナスになった顧客の割合が増えたことを示している。

全体では損益がプラスの顧客は71.8%となっており、1年前の91.7%から約20ポイントも減少したことになる。業態別で見ると次のとおりだ。

<業態別>投資信託の運用損益別顧客比率

・投資運用業者:82.4%(前回:90.0%)
・主要行等:77.8%(同89.7%)
・その他(保険会社等、IFA、日本郵便):77.1%(同96.3%)
・地域銀行:72.6%(同91.9%)
・証券会社:69.8%(同89.2%)
・協同組織金融機関等:67.6%(同94.7%)

出所:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析」よりFinasee編集部作成

全ての業態で前年と比較してプラスリターンの顧客比率が低下しており、また業態間の差も拡大している。この背景には24年から25年にかけての市場環境の悪化があると考えられる。

25年3月末はちょうどトランプ関税の動向に世界中がほんろうされていた時期と重なる。一方で24年3月末は前年秋ごろから続く相場の上げ調子の時期に合致する。日経平均株価が史上初の4万円台を突破したのが同年3月4日だった。これらの要因から1年前と比較して大きく差が開いたと推測される。

残高上位20銘柄の傾向は「コスト減少、リターン増加」

続いて、投資信託預り残高上位20銘柄のコストとリターンも見ていこう。金融機関全体の平均値としては調査時点の1年前と比較してコストは小幅に低下しつつ、リターンは上昇している。つまりコスト対リターンの効率が良くなっている。

コストとリターン(全公表事業者)

コストとリターン(全公表事業者)
出所:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析」

これは投資信託の手数料の引き下げが進む一方で、パフォーマンスの良い商品が増加したことを示唆している。

なお業態別の差も見られ、リターンやコスト効率において金融機関ごとの特色が表れている。業態の違いは上図内にプロットされた丸の色で分かる。例えば青色の地域銀行は比較的、全体平均の周辺にまとまっている。一方で、茶色の証券会社は特に企業間のばらつきが大きいことが見て取れる。

残高上位20銘柄は「リスク低下・リターン上昇」へ好転

同様に投資信託預り残高上位20銘柄のリスクとリターンの調査時点での結果を見てみよう。金融機関全体の平均値を前年比でみると、リターンは上昇しつつリスクは低下している傾向が見られる。これは投資効率、つまりリスクに対するリターンが向上していることを意味する。

リスクとリターン(全公表事業者)

リスクとリターン(全公表事業者)
出所:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析」

この結果は投資家にとって同じリスクでより高いリターンが期待できる商品が増えていることを意味する。

顧客の運用状況は悪化も、株高傾向で改善に期待

最新の投資信託の共通KPIに関する分析結果からは運用損益が前年比プラスの顧客の割合が大きく減少したことが分かった。これは市場環境の悪化が主な要因と考えられる。

一方で、預かり残高上位20銘柄のコスト・リターン比率とリスク・リターン比率はともに改善している。

投資家としては、一時的な市場環境の悪化に惑わされることなく、長期的な視点で商品を選ぶことが重要だ。共通KPIを活用して、コストやリスクに見合ったリターンをあげている投資信託をそろえる金融機関を見極めることが資産形成の第一歩につながるだろう。

なお、これらの指標は調査時点での状況を示すものであり、時系列で継続的に見ていくことで、より正確な判断材料となる。

●具体的にどの金融機関の顧客の損益が好調だったのか? 後編「銀行ランキング 投資信託の「運用損益」プラスの顧客の割合は?【主要15行&地銀90行】」にて詳報する。

概要:投資信託の共通KPIに関する分析 <2025年3月末基準>(金融庁) 公表日:2025年9月10日

Finasee編集部

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。