日本の生涯未婚率は年々増加し、2040年には男性で3人に1人、女性でも5人に1人がおひとりさまになると予測されています。都内在住の会社員、長嶺香織さん(仮名)も48歳の現在まで結婚歴がなく、「このまま“高齢おひとりさま”になったら1人で暮らしていけるのか、ずっと不安だった」そうです。
長嶺さんは今年のゴールデンウィークに地元で開かれた高校の同窓会に出席して改めて“あとがない”年齢を実感。老後に向けての資産の確保と、そのための家計の見直しをしようと、あるお金の専門家の門を叩きました。
結果、「将来像を数字で示してくださったことで一気に視界が開けた」と長嶺さん。ストレスが溜まった時にやりがちだったポチり買いが、専門家との面談を受けた後はほとんどなくなったそうです。長嶺さんに相談のきっかけやアドバイスの具体的な内容について話してもらいました。
〈長嶺香織さんプロフィール〉
東京都在住
48歳
女性
会社員
賃貸マンションに1人暮らし
金融資産250万円
同窓会で地元の友人たちに再会
今年のゴールデンウィークに地元で通っていた女子高の同窓会がありました。卒業してから30年、当時の担任教師が定年を迎える節目だったこともあり、40人のクラスのうち27人が集まる盛況ぶりでした。
地元を離れていた私は知らなかったのですが、驚いたのはクラスメイトの2人が鬼籍に入っていたことです。改めて、48歳という年齢はもう若くないのだなと痛感しました。
同級生の現状を知り次第に焦りが募る
女子高時代、私はスクールカーストの上位にいました。地方の大して偏差値も高くない学校ですが、成績は常にトップ10に入っていたので、それが大きかったと思います。しかし、今となっては、私は普通の会社員。一方で、看護師になって外科医と結婚してタワーマンションに住んでいたり、地元選出の市会議員をやっていたり、人気旅館に嫁いで名物女将になっていたりする同級生がいて、皆から羨望を集めていました。
私は高校時代からの親友・麻里子と参加したのですが、美人で成績も良かった麻里子もなぜか未だに独身で、同窓会の後は2人で飲みに行き、互いの境遇を愚痴り合いました。
麻里子に「結婚する気あるの?」と尋ねると、麻里子は「あるに決まってるじゃない。でも、今さらマッチングアプリでもないし、婚活バスツアーくらいは行かないと厳しいかもね」と笑っていました。
確かにそうかもしれない、と不本意ながら思いました。
年齢も年齢ですから結婚を考えた相手も何人かいますが、理想が高かったせいか、「もっといい人がいるはず!」と踏み切れませんでした。しかし、45歳で彼氏と別れてからは恋愛もとんとご無沙汰で、このまま年を取っていくだけでもうワンチャンあるかも怪しいところです。
生涯独身の可能性も…思い出すのは叔母の終活
まだ、生涯独身を貫くと決めたわけではありませんが、その可能性は年々高まっています。「おひとりさま」という言葉を聞くと真っ先に思い出すのが母の一番下の妹の叔母のことです。叔母はあの年代では珍しく、シングルのまま公務員として定年まで勤め上げました。定年を迎えてこれから好きな旅行を楽しむと話していた矢先、指定難病に罹患していることが分かりました。
驚いたのは、叔母がその後、母などきょうだいに全く頼ることなく、自分の終活を全部自分の手でやり遂げたことです。自宅を売却した後はホスピスに入居し2年ほどして65歳で亡くなりましたが、葬儀は不要であること、お骨は事前に登録した共同墓地に納めること、残った財産は慈善団体に寄付することなど、ことごとく指定されていたのです。
母によると、叔母には5000万円近い遺産があったと言います。公務員とはいえ、叔母は高卒ですし、役付きになったこともありません。住んでいたのも駅近ではあるものの1DKの狭いマンションで、どちらかと言えば殺風景な部屋でした。叔母は今風に言うならミニマリストで、最低限必要なものしか買わないタイプ。とにかく質素で堅実だったのです。ただし、休暇を利用しては好きな旅行に出かけたり、私のような甥姪には節目節目のお祝いやプレゼントを贈ってくれたりしていました。
計画性皆無の人生に感じた危機感
叔母と比べると、私は計画性が皆無で、行き当たりばったりの人生を送ってきました。大して多くもない給料を美容や美食や趣味、旅行、さらにはキャリアアップのセミナーなどに注ぎ込み、仕事や人間関係でストレスが溜まってくると深夜のポチり買いが止まりませんでした。
叔母のように30代で自宅マンションを購入するなどできるはずもなく、50を目前にした今も毎月リノベしたデザイナーズマンションに安からぬ家賃を払い続けています。昨年からはNISA(少額投資非課税制度)の積み立て投資を始めましたが、この分を除けば、預金残高は200万~300万円の間を行ったり来たりです。退職金が2000万円くらいは出そうなので、老後資金の不足分はそこで埋め合わせるしかありません。
太い実家があれば相続に期待できるのかもしれませんが、我が家の場合は兄一家が同居して両親の面倒を見てくれており、両親が常に「お金はないよ」と言っているのと、地方の実家不動産が二束三文にしかならないことを考えると、当てにしない方が良さそうです。
先の同窓会を機に、「来年には50になるのにこのままではさすがにマズイ」と思い始め、独り身で老後に突入しても何とか暮らしていけるような資産の確保と家計の見直しを目指し、お金の専門家に相談しようと考えました。
そうして探し出したのが、ファイナンシャルプランナー(FP)の野中さんです。野中さんはウェブサイトで家計相談の連載を持っており、相談者に寄り添った、時には優しく時には厳しい、丁寧な回答ぶりが印象的でした。
思い込みの強い私は「自分を救ってくれるのはこの人しかいない」と、野中さんの門を叩くことにしたのです。それが今年6月のことでした。
●果たして、長嶺さんは安心して老後を迎えるための道筋を見つけられるのでしょうか。後編【「確かにお金も大切だけれど…」おひとりさま老後に備える48歳女性にFPが伝えた“人生の後半戦で最も重要な資産”】では、具体的な家計改善策と、長嶺さんの人生観を大きく変えたアドバイスに迫ります。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。