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金利上昇局面で住宅ローンはどうなる?「125%ルール」では安心できない理由とは?

2025/10/30 08:00

2024年の3月にゼロ金利政策が解除され、金利の上昇が続いています。高市首相の誕生で今後の金利の動向にも注目が集まっていることは、報道を通じてご存知でしょう。 では、金利が上がると、一般の家庭にはどんな影響があるのでしょうか? 決して他人ごとではない金利のいろはについて、運用歴30年の金利のプロが解説します。(全3

2024年の3月にゼロ金利政策が解除され、金利の上昇が続いています。高市首相の誕生で今後の金利の動向にも注目が集まっていることは、報道を通じてご存知でしょう。

では、金利が上がると、一般の家庭にはどんな影響があるのでしょうか?

決して他人ごとではない金利のいろはについて、運用歴30年の金利のプロが解説します。(全3回の1回)

※本稿は、福室光生著『投資は金利が9割 運用歴30年のプロが教える「儲ける技術」』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。

住宅ローンを利用していたり、利用を検討したりしている場合

日銀は長年続けてきたゼロ(またはマイナス)金利政策の修正に動き、2024年3月、ついに17年ぶりの利上げに踏み切りましたが、私たちの住宅ローンにはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

特に「変動金利型」でローンを利用している人にとっては、利上げは他人事ではありません。

日本の住宅ローンの約7~8割は変動金利型で組まれています。

住宅金融支援機構の調査によれば、近年の新規借り入れに占める変動金利型住宅ローンの割合は一貫して高く、2022年度は77.9%を変動型が占めました。

期間固定型(一定期間だけ固定金利)や全期間固定型(「フラット35」など)を選ぶ人は少数派と言えます。

「フラット35」は公的機関である住宅金融支援機構が後ろ盾となった長期固定金利の住宅ローンで、保証人や保証料が不要で、繰り上げ返済の手数料もかからないなどの特典があります。

日本人の多くが変動金利型で住宅ローンを組むようになった背景には、変動型の金利が非常に低水準で推移してきたことがあります。

実際、2023年の初め頃にはネット銀行では変動型が年0.3~0.5%程度、メガバンクでも0.4~0.5%台後半でした。借り手にとって魅力的な低金利水準が続いていたのです。

一方、全期間固定型(金利固定35年ローン)の代表例である「フラット35」は、2024年時点で1.8%前後となっており、変動型に比べてかなり金利が高くなっています。

多くの借り手にとって、毎月の返済額を抑えられる変動型は魅力的であり、その結果として変動金利型への集中が起きていたのです。

短期プライムレートに連動する住宅ローン

変動金利型の住宅ローン金利は、一般に各銀行の短期プライムレート(銀行が優良企業向けに貸し出す短期貸出基準金利。「短プラ」と言う)に連動して決まります。そして、この短プラは日銀の政策金利に影響を受けます。

2024年7月に日銀が政策金利をプラス0.1%からプラス0.25%に引き上げたのを受けて、メガバンク3行はそろって短プラを年1.475%から1.625%へと引き上げました。

さらに日銀は2025年1月にも政策金利を0.5%まで引き上げ、短プラは1.875%に達しています。

このような利上げの動きは、変動型住宅ローン金利の上昇圧力となります。実際、一部の銀行では利上げに合わせて店頭金利(基準金利)を引き上げ始めています。

もっとも、銀行間の競争が激しい住宅ローン市場では、銀行側もそう簡単に金利を上げられない事情があります。2023年の短プラ上昇時にも、基準金利を上げつつ金利優遇措置(金利引き下げ幅)を拡大し、実際の適用金利を据え置く動きが見られました。

そのため、今のところ、メガバンクの店頭変動金利は年0.5~0.7%前後と、利上げ前と比べてまだ大きくは変わっていません。

しかし、この先、日銀がさらに利上げを行えば、各行の対応次第では徐々に変動金利の適用金利が上昇するリスクがあります。

特に変動金利ですでに住宅ローンを利用している人は、今後の金利の動向をよく見ておく必要があるでしょう。

金利上昇で住宅ローンはどれほど上がるのか

日本の住宅ローンの多くには「5年ルール」「125%ルール」と呼ばれる仕組みがあります。

これは、たとえ金利が上昇しても、5年間は月々の返済額(元利合計)を据え置き、6年目以降に返済額が増加する際も「直前の返済額の125%以内に収める」というルールです。

例えば、金利上昇で本来返済すべき額がそれまでの1.5倍に跳ね上がるような状況であっても、次の見直しでは最大1.25倍までしか増えないよう調整されます。

このルールのおかげで、急な金利上昇時にも家計の返済負担がいきなり倍増するような事態は避けられるわけですが、安心はできません。

返済額が据え置かれている間も増加した利息分は蓄積されていき、のちのちのタイミングで返済計画を圧迫するからです。極端な場合、支払いが元金に充当されず、利息の支払いにしか充当されない「利息ローン」の状態にも陥りかねません。

つまり、変動金利型の住宅ローンには、表面的な安定の裏で「利息負担が将来大幅に増える」怖さがあるのです。

実は、現状では預金など短期の実質金利は大幅なマイナスになっています。

短期金利に連動する変動金利でお金を借りることは、インフレ率よりも大幅に低い金利をベースに借り入れを行えるという意味で大変有利な状況です(そこからの上乗せ金利などの条件を吟味する必要は常にあります)。

しかし、長い目で見れば、短期金利が欧米並みのレベルにまで大きく上昇するリスクはゼロではありません。「まだ低金利だから大丈夫」と油断せず、金利動向を注視していくことが大切です。

投資は金利が9割 運用歴30年のプロが教える「儲ける技術」

著者名 福室光生
発行元 KADOKAWA
価格 1980円(税込)

福室 光生/レオス・キャピタルワークス 債券戦略部長

レオス・キャピタルワークス 債券戦略部長、グローバル債券ファンドの運用を担当。東京大学工学部計数工学科を1994年に卒業後、三菱商事を経てCSファーストボストン証券で金融キャリアをスタート。その後、JPモルガン証券、UBS証券にて金利デリバティブズや国債の自己勘定・対顧客トレーディング業務に従事。UBS証券では永年にわたりマネージング・ディレクターを務めた。2020年より現職に至る。