■要旨 税制改正でNISAの見直しが決まり、利用促進・利便性向上による「貯蓄から投資」の加速が期待される。本レポートは企業型DCの分析を通じて、元本確保型商品から投資信託(特に外国株式)への「貯蓄から投資」の流れ、金融リテラシーの向上の状況を確認し、各種変化の要因を検討する。資産運用立国を成長戦略に繋げるためには、サ
■要旨
税制改正でNISAの見直しが決まり、利用促進・利便性向上による「貯蓄から投資」の加速が期待される。本レポートは企業型DCの分析を通じて、元本確保型商品から投資信託(特に外国株式)への「貯蓄から投資」の流れ、金融リテラシーの向上の状況を確認し、各種変化の要因を検討する。資産運用立国を成長戦略に繋げるためには、サナエノミクスによる成長戦略の実現、個人の金融リテラシー1向上が必要である。
1 金融や経済に関する知識や情報を正しく理解し、主体的に判断することができる能力。
先ず、NISAの見直しに至った高市政権の考え方を、高市首相の所信表明演説、並びに片山大臣への指示書から整理する。
所信表明演説(一部抜粋)
「(前略)成長戦略を加速させるためには、金融の力が必要です。「資産運用立国」に向けた貯蓄から投資への取組の成果に基づき、金融を通じ、日本経済と地方経済の潜在力を解き放つための戦略を策定し、官民連携で取り組んでいきます。(後略)」
片山金融担当大臣への指示書(一部抜粋)
「(前略)資産運用立国・投資立国の実現に向けて、人的投資やインパクト投資を含めたすべての投資を促進する。そのために、貯蓄から投資への移行を更に進めるとともに、企業統治の強化や資産運用の高度化等に取り組む。(後略)」
これらを踏まえると、高市政権はこれまでの資産運用立国の流れを継承しつつ、運用成果を成長戦略に積極的に活かしていくスタンスである。資産運用立国は、家計金融資産の半分以上を占める現預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで、更なる投資や消費に繋がる、「成長と分配の好循環」の実現を目指している。そして、これを実現する手段として、NISAなど制度の拡充や金融経済教育の充実など、家計の安定的な資産形成を支援するための取組を進めている。「貯蓄から投資」は小泉政権の頃から言われているが、2014年はNISAの開始、2017年のiDeCo元年2などの制度・税制が順次整備されており、今回の見直しはNISAの利用促進・利便性向上であり、これまでの流れの延長線上にある。両制度は、資産形成や老後資金の準備など、何らかの動機により運用に関心を持つ層が主な利用者と考えられる。そこで本稿では、企業型DCの情報を用いて、金融経済教育や金融リテラシーについて考えたい。企業型DCは2001年に制度が開始されており、また運用に対する関心の有無に関わらず導入企業の全従業員が加入者3となる。加えて、加入者に対する継続教育4は、2016年に事実上義務化5されている。運用への関心の低い層を含めた長期に亘る状況を確認できる点が企業型DCの特徴である。




投資信託の占める割合が高まった要因としては、(1)金融リテラシーの向上による適切な運用見直し(リスクテイク)、(2)内外株式を含む投資信託などの運用が好調(順張り運用)、(3)低水準の国内金利による元本確保から投資信託への配分見直し、などが考えられる。そこで、2013年度と2023年度の年代別の商品選択状況を確認し、(1)~(3)の要因を考えるためのヒントとしたい(図表5、6)。


このように、企業型DCの運用商品の選択状況を踏まえると、「貯蓄から投資」への流れは進みつつあると考えられる。投資判断の経緯に関わらず、投資行動は金融リテラシーの向上に繋がり、資産運用立国が目指す「成長と分配の好循環」の重要な要素となる。加えて、今回の税制改正によりNISAの利用促進・利便性向上は「貯蓄から投資」の流れを更に押し進め、税収面は減収要因であるものの、成長戦略の加速に資する効用はこれを遥か上回るだろう。その前提として国内市場への投資資金の回帰を促す必要があるが、企業型DCの現状では外国株式への投資比率が相対的に高く、資金の一部が海外へ流出している。この動きを改めなければ「貯蓄から投資」の流れが我が国の成長戦略に繋がらない。また、金融リテラシーの向上は投資先に対する選定眼が厳しくなる面もある。
2025年度補正予算、2026年度税制改正大綱、2026年度予算を経済政策や財政運営などの裏付けとして、サナエノミクスがいよいよ動きだした。高市政権には、市場がサナエノミクスに向けている期待を実際の成果を通じて確信に変え、海外に向かっている投資資金を国内投資への回帰に繋げる必要がある。一方、運用環境は常に良好とは限らないため、家計には厳しい環境にも備える金融リテラシーが必要である。高市首相が目指す「貯蓄から投資への取組の成果に基づき、金融を通じ、日本経済と地方経済の潜在力を解き放つ」ためには、これら両者が整う必要がある。
2 個人型確定拠出年金は2001年度に制度発足しているが、加入者対象者が限定であるなどの理由により普及は進まなかった。2017年の制度改正によりiDeCoとの愛称を付け、加入対象者の拡大などの制度の見直しを行った。
3 企業型DCには、全員加入型と選択制があるため、全ての企業型DCで全従業員が加入者となってはいない。最近は選択制の設定が増加傾向。
4 企業型DCでは、加入者に対して制度の仕組みの教育、並びに金融経済教育と実施している。これは新規加入時だけでなく、定期的に知識・情報を更新するために実施しており、これを継続教育という。
5 2016年以前、以降ともに継続教育は法令上の努力義務。2016年以前は自己責任原則が前提であり教育は補助的な考え方であったことに対し、2016年以降は教育は自己責任原則の前提となる。
6 事業主(企業)が想定するモデル退職金を受け取るために必要な運用利回り。加入者(従業員)が運用する際の目標水準となる。企業年金連合会の「企業年金に関する基礎資料」によると、2023年度の想定利回り(制度導入時)の平均値は1.94%。