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1980年代から将来負担に配慮し、現在は保険料の引上げを打止め-2025年 年金改革の背景・意義・課題 (2) 年金制度のタテ問題

2026/01/06 00:00

■要旨 新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。 連載の第2回にあたる本稿では、年金制度のタテ問題について

■要旨

新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。

連載の第2回にあたる本稿では、年金制度のタテ問題について、背景や対処の流れを確認した。その要点は、次のとおりである。

  • 年金の「タテの問題」は、世代間のバランスや年金財政の持続可能性の問題である。
  • タテの問題が生じる主な要因は少子化や長寿化による人口の変化だが、女性や高齢期の就労の進展が少子化や長寿化の影響を抑制している。
  • タテの問題に対しては、1980年の改正案から将来負担が意識され給付の抑制が模索されたが、年金財政の持続可能性の確保は容易でなかった。
  • 2004年の改正で制度が大きく見直され、将来の保険料の引上げを止める代わりに給付の伸びを抑制することで、年金財政のバランスを確保する仕組みへと転換された。

マスコミやSNSなどを通じて新しい制度改正を知ると、突然の大変更のように感じる場合がある。しかし、年金問題の整理方法やこれまでの対応の流れを知っておけば、より冷静に受け止め、建設的な議論につなげられるだろう。

■目次

はじめに
1 ―― タテ問題の背景と留意点
  1|タテ問題の背景:少子化や長寿化が主な要因
  2|タテ問題の留意点:女性や高齢期の就労の進展が、少子化や長寿化の影響を抑制
2 ―― タテ問題への対処の大きな流れ
  1|タテ問題への対処の整理
   :1980年代から将来負担を意識し、2004年改正で保険料引上げを打止め
  2|1970年代まで:未来の保険料を財源に、給付を充実
  3|1980年改正(案)から2000年改正まで:将来の負担を意識して、給付の抑制を模索
  4|2004年改正から
   :保険料の引上げを止め、給付の伸びを抑制して年金財政のバランスを確保
3 ―― 本稿のまとめ新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。

連載の第2回にあたる本稿では、年金制度のタテ問題について、背景や対処の流れを確認する。

1 ―― タテ問題の背景と留意点

1|タテ問題の背景:少子化や長寿化が主な要因
連載の第1回で述べたように、年金制度の設計の問題は、「タテの問題」と「ヨコの問題」に整理できる1。このうちタテの問題は、先輩・後輩というタテの関係の問題であり、言い換えれば世代間のバランスや年金財政の持続可能性の問題である。この問題では、現在の加入者が将来は受給者となる構造についても、留意する必要がある。

タテの問題が生じる主な要因には、少子化や長寿化による人口の変化がある。

日本の総人口は、約100年前の1920年には約5500万人であったが、現在(2020年の国勢調査)では約1億2600万人と、2倍以上の水準になっている(図表1)。しかし、出生率(合計特殊出生率)は、1970年代の半ばから、人口を長期的に維持するために必要な水準(人口置換水準。1975年以降は2.06~2.10)を下回り続けている。将来の出生率が近年(2020年・1.33)と同等の水準(1.36)で推移する場合には、2060年頃から毎年約1%のペースで人口が減少し続け、約100年後には総人口が約5000万人になると推計されている。

このように、約100年後の総人口は約100年前と同等の水準に戻る見通しになっているが(図表1の青の線)、年齢構成は約100年前と約100年後で大きく異なる。

2020年の15歳未満の人口は約1500万人だが、この水準は約100年前の1920年より少なく(図表1の緑の線)、約100年後の2120年には約450万人へ減少すると見込まれている。総人口に占める15歳未満の割合は、約100年前の1920年には36%だったが、約50年前の1970年には24%、2020年の国勢調査では12%へ低下しており、約100年後の2120年には9%になると見込まれている。

他方で、総人口に占める65歳以上の割合は、約100年前の1920年には5%、約50年前の1970年には7%に過ぎなかったが、2020年の国勢調査では29%に達しており、約100年後の2120年には40%へ上昇することが見込まれている(図表1の濃い橙の部分)。少子化に伴う若年人口の減少と高齢期の余命の進展が、その主な要因である。

1 ヨコの問題は、同じ世代の中で働き方などによって立場が違う人々の間の不公平感の問題、すなわち世代内のバランスの問題である。詳細は連載の第1回「年金問題はタテとヨコに整理。ヨコ問題は統合・拡大で解決へ」を参照。

2|タテ問題の留意点:女性や高齢期の就労の進展が、少子化や長寿化の影響を抑制
しかし、年金財政の持続可能性の観点からは、年齢構成の変化のみで過剰な危機感を覚えるのは早計である。

確かに、15歳以上の人口を年齢で区分すると、15~64歳の生産年齢人口は1990年代半ばから減少に転じ、同時期から65歳以上の人口が大きく増えている、という現状や見通しを読み取れる(図表2左)。しかし、15歳以上の人口を就業者と非就業者に区分すると、就業者は近年まで緩やかな増加傾向にあり、今後は緩やかな減少傾向が見込まれているものの、その傾きは非就業者より小さい(図表2右)。

このような就業者数の動きの背景には、女性や高齢者における就労の進展がある。就業者を図表3のように区分すると、59歳までの男性は15~64歳の生産年齢人口と同様には1990年代半ばから減少しているのに対し、59歳までの女性は一時的な減少が見られるものの現在まで緩やかな増加傾向にあり、59歳までの男女合計では1990年代半ばと比べて微減にとどまっている。他方で60歳以上は1990年代から増加傾向にあり、その結果、現在の全体の就業者数は、1990年代半ばよりも増加している。

この影響は、人口構成比にも表れている。「おみこし型から肩車型へ」と言われるように、65歳以上人口に対する15~64歳人口の倍率(図表4の橙の線)は、この約50年間で大幅に低下している。しかし、非就業者に対する就業者の倍率(図表4の緑の線)は、1980年代からほぼ横ばいで推移している。

女性や高齢者には非正規雇用が多いことや公的年金では65歳以降に就労しても原則として年金を受け取れることを考慮すると2、年金財政の持続可能性に対しては、前述した就業者と非就業者の比率ほどの好影響は期待できない。しかし、年齢構成の変化がそのまま影響する訳ではなく、女性や高齢者における就労の進展によって年齢構成が変化する影響が抑えられる点には、留意が必要だろう。


2 厚生年金に加入しながら厚生年金を受給する場合で収入が高い場合は、在職老齢年金制度により年金額が減額される可能性がある。ただし、減額の対象者や減額の程度は、近年の制度改正で縮小傾向にある。

2 ―― タテ問題への対処の大きな流れ

1|タテ問題への対処の整理:1980年代から将来負担を意識し、2004年改正で保険料引上げを打止め
前述のような人口の変化は、最近になって急に判明したわけではない。日本の人口は5年ごとの国勢調査で確認され、それをもとに将来の見通しが推計されており、公的年金制度は、この将来見通しに合わせて見直されてきた。

タテの問題の観点からは、これまでの年金改革を大きく3つの時期に整理できる(図表5)。以下では、公的年金制度の中で最も加入者が多い厚生年金について、おおまかな流れを確認する3(図表6)。

3 制度改正等のもう一歩詳しい説明は、厚生労働省年金局数理課(2020)「2019年財政検証結果レポート」第2章第3節(pp.110 - 120)や、中嶋ほか(2005)「厚生年金改革の数理:パラメーター設定の視点から」城戸喜子・駒村康平編『社会保障の新たな制度設計:セーフティ・ネットからスプリング・ボードへ』pp.199-221、などを参照されたい。

2|1970年代まで:未来の保険料を財源に、給付を充実
最初の時期は1970年代までである(図表6上段)。この時期には高度経済成長などで生活水準の向上が進んだが、1972年改正が行われるまでは、年金の給付水準が物価や賃金の伸びに連動する仕組みになっていなかった。また、長寿化や核家族化の進展などで、老後の所得保障への関心が高まった。加えて、厚生年金の創設は1944年、戦後の全面改正は1954年に行われたため、この時期に受給開始年齢に到達する人々は、加入期間が短かった。

これらの背景から、この時期には、当面の受給者を念頭に置いた給付の充実が段階的に実施された。その一方で、保険料については、会社員向けの厚生年金が1954年に全面的に改正された際に、当時の社会情勢を考慮して、当初の保険料を低く抑えて段階的に保険料(給与に対する保険料率)を引き上げる方式が採用された。その後、制度改正ごとに当面の保険料率は引き上げられていったが、給付の充実に伴って、将来の最終的な保険料率は上昇を続けた。

3|1980年改正(案)から2000年改正まで:将来の負担を意識して、給付の抑制を模索
しかし、1980年代に入ると、少子化や長寿化の影響が明確になってきたため、政府は保険料引上げの限界を意識して給付の抑制を模索し始めた(図表6中段)。例えば、退職した会社員が厚生年金を受け取り始める標準的な年齢(支給開始年齢)の60歳から65歳への引上げは、1980年に当時の厚生省が提案した。しかし、定年が55歳となっている企業が多い社会情勢の下で、定年年齢を大きく上回る引上げに対して経営者側も労働者側も反対したため、実現しなかった。

その後、1994年と2000年の改正で将来の段階的な支給開始年齢の引き上げが決定したが、その間にも進行を続けた少子化や長寿化へ対応するために、給付乗率の引下げや年金改定率の実質的な引下げなども行われた。

その一方で、2000年の改正では以前に計画されていた保険料の引上げが政治的に見送られるなど、年金財政の持続可能性の確保は容易でなかった。4|2004年改正から:保険料の引上げを止め、給付の伸びを抑制して年金財政のバランスを確保
そこで、2004年改正では、制度が大きく見直された(図表6下段)。従来は、給付の抑制を模索しつつ、少子化や長寿化に合わせて将来の保険料を引き上げることで、年金財政の持続可能性を確保する仕組みだった。これに対して、2004年の改正では、将来の保険料の引上げを止め、その代わりに「マクロ経済スライド」を導入して少子化や長寿化に合わせて給付の伸びを抑制することで、年金財政のバランスを確保する仕組みへと転換された4

しかし、物価や賃金の下落が発生した影響で、マクロ経済スライドは仕組みとして法定されたものの実際には適用されない状況が続き、経過措置として設けられた特例水準での給付が行われ続けた。そこで、2012年の制度改正で特例水準の解消が決定され、2015年度からマクロ経済スライドが適用されることになった。

さらに、2016年の制度改正では、物価や賃金の下落が発生した場合に年金財政の悪化が進まないように、賃金スライドの徹底やマクロ経済スライドの見直しが実施された。


4 詳細は、連載の次回で解説予定。

3 ―― 本稿のまとめ

連載の第2回にあたる本稿では、年金制度のタテ問題について背景や対処の流れを確認した。その要点は、次のとおりである。
  • 年金の「タテの問題」は、世代間のバランスや年金財政の持続可能性の問題である。
  • タテの問題が生じる主な要因は少子化や長寿化による人口の変化だが、女性や高齢期の就労の進展が少子化や長寿化の影響を抑制している。
  • タテの問題に対しては、1980年の改正案から将来負担が意識され給付の抑制が模索されたが、年金財政の持続可能性の確保は容易でなかった。
  • 2004年の改正で制度が大きく見直され、将来の保険料の引上げを止める代わりに給付の伸びを抑制することで、年金財政のバランスを確保する仕組みへと転換された。

マスコミやSNSなどを通じて新しい制度改正を知ると、突然の大変更のように感じる場合がある。しかし、年金問題の整理方法やこれまでの対応の流れを知っておけば、より冷静に受け止め、建設的な議論につなげられるだろう。