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保険料の引上げをやめるために、既存受給者も含めて給付を抑制-2025年 年金改革の背景・意義・課題 (3) 現在の年金財政の基本的な仕組み

2026/01/15 00:00

■要旨 新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。 連載の第3回にあたる本稿では、現在の年金財政の仕組みにつ

■要旨

新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。

連載の第3回にあたる本稿では、現在の年金財政の仕組みについて、その背景や基本的な考え方と意義を確認した。その要点は、次のとおりである。

  • 現在の年金財政の仕組みが導入された背景には、2004年の制度改正に向けた厚生労働省の試算において、給付水準を維持すると将来の保険料が当時の約2倍になる見通しが示された点があった。
  • そこで2004年の制度改正では、保険料の引上げをやめる代わりに給付の伸びを抑制することで年金財政のバランスを取る仕組みへと、大きく変更された。
  • この制度改正の意義の1つは、新しい仕組みが、少子化や長寿化に対応した年金財政の健全化対策となる点である。
  • この制度改正のもう1つの意義は、保険料の引上げの打止めによって、世代間不公平の改善策となる点である。

マスコミやSNSなどが年金制度を説明する際には、制度が導入された背景や意義までは語られない場合が多い。年金額の伸びが物価や賃金の伸びよりも抑えられるのは、以前のような保険料の引上げをやめたうえで少子化や長寿化に対応するためであることを知っておけば、より冷静に受け止め、建設的な議論につなげられるだろう。


■目次

はじめに
1 ―― 現在の年金財政の基本的な仕組み
  1|2004年に改正された背景:給付水準を維持すると、将来の保険料が当時の約2倍に
  2|現在の仕組みの基本的な考え方:保険料の引上げをやめる代わりに、給付の伸びを抑制
2 ―― 現在の仕組みの意義
  1|意義1:少子化や長寿化に対応した年金財政の健全化対策
  2|意義2:保険料の引上げの打止めによる世代間不公平の改善策
3 ―― 本稿のまとめ新しい年金制度改正法が2025年6月12日に成立し、公布時に施行されるものを除き、2026年4月から段階的な施行が始まる。本連載では、制度改正をより冷静に受け止めるために、改正内容に加えて改正に至った背景を確認し、改正の意義と残された課題を考察する。

連載の第3回にあたる本稿では、現在の年金財政の仕組みについて、その背景や基本的な考え方と意義を確認する。

1 ―― 現在の年金財政の基本的な仕組み

1|2004年に改正された背景:給付水準を維持すると、将来の保険料が当時の約2倍に
連載の第2回で述べたように、少子化や長寿化に伴う世代間のバランスや年金財政の持続可能性の問題を改善するために、2004年改正で年金財政の仕組みが大きく見直され、これが現在の仕組みの基礎となっている1

2000年改正前までの年金額は、物価に連動して毎年度見直され、5年度目には過去5年度分の賃金の変動に合わせて見直される仕組みになっていた。これは、年金受給者の生活水準の変化を現役世代の生活水準の変化、すなわち賃金水準の変化に合わせるためである。また、年金財政の主な収入は保険料で、これは賃金の水準に連動して変化する。このため、年金財政の支出である給付費も賃金に連動して変化させれば、年金財政のバランスが維持される。

しかし、この財政バランスが維持される話は、現役世代と高齢世代の人数のバランスが変わらない場合にしか成り立たない。少子化や長寿化が起きると、現役世代の人数が減って保険料収入が減り、高齢世代の人数が増えて支出である給付費が増えるため、財政バランスが悪化する。そこで2000年改正後は、受給開始後(65歳以後)の年金額は物価上昇率に連動して改定されることになった。当時は賃金上昇率よりも物価上昇率が低かったため、この見直しによる財政バランスの改善が期待された。

しかし、2002年に公表された厚生労働省の試算では、当時の給付水準を維持するためには、厚生年金の将来の保険料を当時の2倍に近い水準(企業負担と本人負担の合計で年間給与の23.1%)にまで引き上げる必要がある、という結果となった(図表1左の赤い点線)。

1 中嶋(2026)「1980年代から将来負担に配慮し、現在は保険料の引上げを打止め-2025年 年金改革の背景・意義・課題 (2) 年金制度のタテ問題」

2|現在の仕組みの基本的な考え方:保険料の引上げをやめる代わりに、給付の伸びを抑制
そこで2004年の改正では、将来の企業や現役世代の負担を考慮し、保険料の引上げを18.3%で打止めにした上で(図表1左の青い線)、その財源の範囲内に収まるように給付水準を調整する(年金額の伸びを賃金や物価の伸びよりも抑える)ことになった。この仕組みが「マクロ経済スライド」と呼ばれている。

給付の調整を継続し、将来約100年間の給付費が将来約100年間の財源の範囲内に収まるようになれば、調整は停止される。ただし、調整を停止できる時期は、今後の人口や経済などによって変動する。そのため、2004年の改正では、人口を調べる国勢調査が5年ごとに行われることに合わせて、少なくとも5年に1度、人口や経済の変化を反映した将来約100年間の収支が均衡するかの確認作業(財政検証)を行うことが、政府に義務づけられた。

また、各回の確認作業では、複数の経済や人口の前提を置いて計算が行われている。最も新しい2024年に公表された将来見通しでは、4通りの経済の前提と7通りの人口の前提を組み合わせた計28通りの見通しが示されている(図表1右)。

2 ―― 現在の仕組みの意義

1|意義1:少子化や長寿化に対応した年金財政の健全化対策
現在の仕組みは、少子化や長寿化に対応した、年金財政の健全化策になっている。

給付の調整は、賃金や物価の変化に合わせた毎年度の年金額の変更(改定)から、調整率を差し引く形で行われる(図表2上)。公的年金では、年金額の実質的な価値を維持するために、賃金や物価の変化に合わせて毎年度の年金額を改定するのが本来の仕組みだが(図表2左下)、そこから調整率が差し引かれるため、年金額の実質的な価値は目減りする(図表2右下)。受給者に経済的な負担を強いる仕組みだが、前述したように現在の仕組みでは保険料の引上げが打止めになっているため、年金財政の持続可能性の確保には必要な仕組みと言える。

差し引かれる調整率は、加入者の減少率と受給者世代の余命の延び率を合計したものとなっている(図表3)。まず、少子化が起こると保険料を払う加入者の数が減るため、年金財政にとっては保険料収入が減ることになる。そこで、加入者の減少に応じて年金額を調整すれば、保険料収入の減少に合わせて給付費が抑制され、財政バランスの悪化を抑えられる。また、長寿化が進むと個々の受給者が長く生き、結果として受給者数が増えるため、年金財政にとっては支出である給付費が増えることになる。そこで、寿命の延びに応じて毎年の年金額を調整すれば、受給者の増加に合わせて給付費が抑制され、財政バランスの悪化を抑えられる。

つまり、少子化や長寿化という人数の変化の影響を、毎年の年金額の見直し、いわば単価の調整で吸収する、という仕組みになっている。この仕組みによって、年金財政の健全化が進んでいく。

2|意義2:保険料の引上げの打止めによる世代間不公平の改善策
現在の仕組みは、年金財政の健全化だけでなく、世代間の不公平の改善にも役立っている(図表4)。

改正前の制度は、少子化や長寿化が進むと将来の保険料が引き上げられる仕組みであったため、すでに年金を受け取っている人は保険料引上げの影響を受けず、いわば勝ち逃げのような状態であった。しかし、現在の制度では、すでに受給者となっている人も、毎年の年金額の改定の中で少子化や長寿化の影響分を調整される。既存の受給者が年金額の実質的な目減りを負担することで、改正前の制度と比べて将来世代の負担が軽減される。

世代間の不公平が完全に解消されるわけではないが、現在の仕組みは、少子化や長寿化の痛みを全世代で分かち合い、以前の制度よりも世代間の不公平を改善する仕組み、と言えよう。

3 ―― 本稿のまとめ

連載の第3回にあたる本稿では、現在の年金財政の仕組みについて、その背景や基本的な考え方と意義を確認した。その要点は、次のとおりである。

  • 現在の年金財政の仕組みが導入された背景には、2004年の制度改正に向けた厚生労働省の試算において、給付水準を維持すると将来の保険料が当時の約2倍になる見通しが示された点があった。
  • そこで2004年の制度改正では、保険料の引上げをやめる代わりに給付の伸びを抑制することで年金財政のバランスを取る仕組みへと、大きく変更された。
  • この制度改正の意義の1つは、新しい仕組みが、少子化や長寿化に対応した年金財政の健全化対策となる点である。
  • この制度改正のもう1つの意義は、保険料の引上げの打止めによって、世代間不公平の改善策となる点である。

マスコミやSNSなどが年金制度を説明する際には、制度が導入された背景や意義までは語られない場合が多い。年金額の伸びが物価や賃金の伸びよりも抑えられるのは、以前のような保険料の引上げをやめたうえで少子化や長寿化に対応するためであることを知っておけば、より冷静に受け止め、建設的な議論につなげられるだろう。