年金・iDeCo・保険を見直したい

「大丈夫です、遺族年金が支給されますよ」56歳妻に職員が明かした、障害年金受給者の遺族に適用される“特別なルール”

2026/01/23 20:00

<前編のあらすじ> 慎一さん(仮名・54歳)は45歳の時にくも膜下出血で倒れ、手足のまひや高次脳機能障害が残り、障害等級1級の年金を受給しながら生活していました。47歳で退職後は、妻の雅美さん(仮名・56歳)と息子2人に支えられながら日常的な介助を必要とする日々を送ります。 しかし慎一さんは54歳で他界。雅美さんは

<前編のあらすじ>

慎一さん(仮名・54歳)は45歳の時にくも膜下出血で倒れ、手足のまひや高次脳機能障害が残り、障害等級1級の年金を受給しながら生活していました。47歳で退職後は、妻の雅美さん(仮名・56歳)と息子2人に支えられながら日常的な介助を必要とする日々を送ります。

しかし慎一さんは54歳で他界。雅美さんは夫との思い出を振り返りながらも、これからの生活への不安を抱えます。介護で働く時間も制約され、家計は苦しくなっていました。

遺族年金について知った雅美さんは「夫は会社も辞めちゃって随分経つし、辞めてから年金の保険料もずっと払っていなかったけど、遺族年金は受けられるのかな」と心配しながら年金事務所を訪ねると、職員から「遺族厚生年金が支給されます」と告げられます。

●前編:【障害年金受給者の夫が他界、保険料は7年間未納?「遺族年金は受けられるのかな」苦しい家計を抱える56歳妻が直面した老後不安】

なぜ保険料未納でも遺族年金が支給されるのか

会社員等厚生年金に加入していた人が亡くなると、その配偶者に遺族厚生年金が支給されることになります。遺族厚生年金を受給するためには、亡くなった人の要件があります。亡くなった人が死亡当時、次の①②③④のいずれかを満たす必要があります。

①厚生年金被保険者であること
②厚生年金被保険者だった場合で当該被保険者期間中に死亡原因となる傷病の初診日があって初診日から5年以内の死亡であること
③障害等級1級あるいは2級の障害厚生年金の受給権者であること
④老齢厚生年金の受給資格期間等(※25年以上必要)を満たしていること

①②については死亡日の前日時点での保険料納付要件があり、死亡日の前々日までの国民年金被保険者期間で、次のA・Bのいずれかを満たす必要があります。

A.保険料の納付と免除が3分の2以上あること
B.直近1年間に未納期間がないこと(亡くなった人が死亡当時65歳未満であることが条件。2036年3月31日までの時限措置)

慎一さんは1級の障害厚生年金受給権者で③の要件を満たしていることから、雅美さんは遺族厚生年金を受給できるようになります。慎一さんは退職後7年間、ずっと保険料を納めていませんでした。しかし、③の要件は、①②のA・Bのような保険料納付要件がありません。また、そもそも慎一さんは1級の障害年金を受給していたことから、退職後に国民年金保険料を納める期間については、保険料が免除され、納付しなくてもよいことになっています。そのため、在職中と退職後の期間だけで見ても④の要件も満たせることになっています(保険料の納付期間・免除期間の受給資格期間で合計約30年)。

実際の加入期間23年でも25年相当で計算される仕組み

遺族厚生年金は亡くなった人の厚生年金被保険者期間などから計算され、亡くなった人が受給していた、あるいは将来受給できるはずだった老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3相当額となるのが原則です。しかし、前述の①②③の場合で、亡くなった人の厚生年金被保険者期間が300月(25年)未満の場合、その実期間ではなく300月にみなしたうえで計算されます。

③に該当する慎一さんは24歳~47歳まで23年程度会社に在籍し、厚生年金に加入していましたが、23年ではなく、25年相当で雅美さんの遺族厚生年金が計算されます。そのこともあって、雅美さんの遺族厚生年金は年間80万円となりました。さらに、雅美さんは40歳以上65歳未満の妻であるため、中高齢寡婦加算として年間62万円も加算されます。そのため、合計で年間142万円が支給されることになりました。慎一さんが退職後に国民年金保険料を払っていなくてもこの金額については影響ありません。

これを聞いて雅美さんは「仕事での給与と遺族年金をあわせた収入があれば十分生活できるし、ちょっとずつ将来への貯蓄もできそう」と思うようになりました。なお、65歳以降は中高齢寡婦加算がなくなり、雅美さん自身の老齢基礎年金・老齢厚生年金と、差額支給の遺族厚生年金(80万円から雅美さんの老齢厚生年金に相当する額を差し引いた額)の合計で受給することになります。

会社員だった人が亡くなり、遺族厚生年金が遺族に支給されるためには、亡くなった人の要件があります。保険という仕組みである以上、加入期間や保険料の納付状況で支給が判定されますが、保険料を納めていなかった期間があったとしても、それだけで受給ができなくなったり、受給額が減ったりするとは限りません。いざという時にある程度の額の遺族年金が支給されれば、その後の生活も安心できるものとなるでしょう。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。

五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。