政府目標は2027年末に3400万NISA口座
「新NISA」は2024年1月のスタートから3年目を迎えました。
新NISAが始まる直前のNISA(少額投資非課税口座)口座数は2125万口座で、その1年後(2024年12月末)には2559万口座と、1年間で434万口座増えました。2024年は新NISAへの注目度も高く、話題性もあり急増した感がありました。2025年はその状況がいったん落ち着き、ブームもひと段落した感があります。
一方で、政府の目標数値は2027年末までに3400万口座を掲げています。2025年6月末の口座数は2696万口座ですから、このままの伸び率が続くのであれば目標達成は難しそうです。
NISAを利用しない理由は「特にない」が3割強
2025年の口座開設の伸び率が鈍化した理由としては、投資や資産形成に興味がある人や口座開設などの手続きをスムーズに行える層がほぼ対応済みであるということかもしれません。実際、「投資信託に関する意識調査2025」※によると、NISAを利用しない理由は「特にない」が34%ともっとも高く、次いで「投資に回せるほどのお金がないから」が23%、「制度の内容がよくわからないから」が20%、「損をしたくないから」が17%となっています。
「損をしたくないから」「投資をするつもりがないから」というネガティブな層を動かすことは難しいかもしれませんが、「特にない」「制度の内容がよくわからない」といった「中間層」に対しては、働きかけを工夫することによって利用者に変わる可能性があるのではないでしょうか。中間層はNISAに興味はあっても、自ら金融機関を選んで口座開設したり、運用商品について情報収集したりすることに手間をかけたくないといった傾向があると考えられます。そんな中間層に対しての切り札が「職場つみたてNISA」です。
※野村アセットマネジメント資産運用研究所「投資信託に関する意識調査」(2025年5月)
企業は取扱業者の選定を行う
職場つみたてNISAは、NISAの仕組みを職場で活用するもので、NISA推進・連絡協議会によって枠組みが整備されています。職場つみたてNISAは、通常のNISAと仕組みや考え方は同じで、基本的にはつみたて投資枠(年間投資枠120万円)を活用することになっています。一方で、通常のNISAとの違いは、職場(企業)が取扱業者(金融機関)を選んでいる点です。NISA取扱業者(成長投資枠)は2025年6月末時点で709社もあるので、そのなかから利用する金融機関がすでに選ばれているだけでも、中間層にはハードルを下げることになると思われます。
職場つみたてNISAの導入は、次のような手順で進められます(以下、取扱業者が野村證券の例)。
・企業とNISA取扱業者が職場つみたてNISAに関する契約を締結
・制度利用についての労使協議を行い利用規約を整備
・利用する従業員はNISA取扱業者に口座を開設
・NISA取扱業者による従業員向けの説明会等の実施
・従業員はNISA取扱業者の商品のなかから投資対象を選択、投資額を決定
・企業はNISA投資金額を給与天引きして、NISA取扱業者に送金
さらに、企業が奨励金をつけることも可能です。金額に応じた定率(3%、5%等)か定額(1,000円、5,000円等)から選択します。導入企業の半数程度が奨励金をつけているようです。
なお、奨励金は賃上げ促進税制の対象となり、一定割合を法人税額(または所得税額)から控除できます(社員からすると給与所得)。
職場つみたてNISAが徐々に広がりを見せている背景には、財形制度利用者の減少もあるようです。低金利が長引いたため、利息に対する税優遇がある財形制度は存在意義が薄れ、利用件数も残高も減少傾向が続いています。さらに、新規の取り扱い停止や、取扱自体を停止する金融機関も出ています。
金融機関のサービス向上(オンライン手続きへの切り替え等)も見込めないことから、財形制度の廃止に踏み切る企業もあります。福利厚生の縮小とならないために、財形制度に代わるものとして職場つみたてNISAを導入するといったケースもあるようです。
職場つみたてNISAの始め方と活用方法
職場つみたてNISAの実施を従業員の立場から考えてみましょう。制度の実施にあたって、取扱業者は金融教育を実施します。なぜ職場つみたてNISAが導入されるのか、その背景(高齢化の進展やインフレ)や積立投資の必要性、税優遇や投資限度額とともに、投資のリスク・リターンの考え方などが盛り込まれます。
証券口座を開設し、その後、NISA口座も開設します(NISA口座開設には約3~4週間かかる)。NISA口座開設まで終わったら、どの投資信託にいくら投資するかをスマートフォンなどのアプリで設定します。手続きは以上で終了です。
個々人の申し込み金額について、企業側で把握できるシステムになっており、企業側は個々人の投資額を給与天引きします。投資を中止したい場合もアプリから実施可能です。
職場つみたてNISAに関するいくつかの留意点
一方、NISAにはいくつかの留意点があるため、よくある質問をいくつか挙げておきます。
①すでに他の金融機関でNISAを行っているときは、どうしたらいい?
今年のNISA枠を使っていない場合は、金融機関の変更はいつでも可能ですが、少しでも投資をしていると、今年は金融機関の変更ができません。そのため、10月以降に今のNISA口座がある金融機関に連絡して、変更したい旨を伝えてください。手続き完了後に交付される書類を提出してNISA口座を改めて開設してください。以前の金融機関の投資信託はそのまま保有が可能です。
②成長投資枠にも投資できるのか?
職場つみたてNISAはつみたて投資枠で行うため、奨励金等の付与は行われませんが、同じアプリのなかで投資が可能です。
③会社を退職する場合はどうしたらいいのか?
アプリ等で全商品の積立を中止する手続きを行います。給与天引きはできなくなるので、銀行口座からの引き落としでつみたて投資を続けることが可能です。
④海外転勤しても利用できるのか?
日本国内において非居住者の方は活用できません。なお、非居住者になる前にNISA口座で買い付けた商品は非課税のまま保有可能です(一定の手続きが必要。最長5年後の年末まで)。
⑤iDeCoの加入者だが、NISAもできるのか?
制度が異なるので、併用が可能です。
⑥正社員ではないが、職場つみたてNISAは申し込めるのか?
基本的に給与天引きが可能であれば(給与が当該企業から支払われていれば)利用可能ですが、企業によって利用制限をかけている場合もあります。
使い分けのポイントは利用目的と運用期間
資産形成制度には、職場つみたてNISAのほかに、確定拠出年金(DC)や持ち株会、社内預金制度などを設けている企業もあります。そのため、「それぞれの制度をどう使い分けていったらいいのか?」という質問も多く寄せられます。
用意されている制度によって説明も異なりますが、ポイントとなるのは、資産形成の目的とどれぐらいの時間をかけられるのかという点です。
老後資産形成であれば、DCがもっとも税優遇が大きい制度であり有利ですが、住宅購入資金や教育資金にはDCの資産は使いにくくなります。持ち株会の奨励金が大きい場合は、持ち株会と職場つみたてNISAの併用という考え方もありますし、より多くの資産を投資に回したい場合は職場つみたてNISAとNISAの成長投資枠を併用する、といった方法もあります。
また、職場つみたてNISA導入時は、金融機関による説明会が開催されるなど、お金のことを再考するきっかけとなります。その結果、他の資産形成制度を増額する人が増えるといった現象が起きることもあります。新入社員の時に決めたままにしていたDCマッチング拠出金額の見直しや、持ち株会の増額など、将来を見据えるきっかけにもなるようです。
金融庁は昨年11月に都道府県別のNISA口座の開設状況を公表しています。東京都・大阪府・愛知県など大都市圏が高い傾向はありましたが、人口対比で見た場合に、例えば富山県・滋賀県・徳島県は大都市圏である福岡県を上回っていました。
職場つみたてNISAの実施企業が各地に広がり、職場を通した金融教育が実践されることで資産形成が身近になっていくことが期待されます。
津田 弘美/野村證券 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。