近年、未上場企業の株式を一部組み入れた「クロスオーバー型」と呼ばれる公募投資信託の設定が解禁されるなど、日本でもオルタナティブ(以下、オルタナ)投資が個人投資家の間でも徐々に注目を浴び始めている。
そもそもオルタナ投資とは、株式・債券の「代替」となる投資対象資産の総称で、未上場企業の株式やローン、不動産、道路や空港などのインフラ施設、ヘッジファンドなど、投資対象は多岐にわたる。
日本では年金基金、大学基金など巨額の資金を運用する機関投資家が中心で、個人投資家のオルタナ資産へのアクセスは一部の超富裕層のみに限られている。一方、アメリカでは超富裕層以外の個人にも裾野が拡大しつつあり、「オルタナ投資の民主化」とも呼ばれている。この市場拡大の牽引役の1つとして挙げられているのが「RIA(Registered Investment Adviser/登録投資顧問)や証券会社等に属するフィーベース(顧客から残高連動報酬を主として受け取る)の投資アドバイザーの存在だ。
目先の販売手数料ではなく、顧客とその家族の話を聞き続け、特定されたゴールと中長期分散ポートフォリオを紐付け運用資産残高に応じた一定の報酬を受け取るビジネスモデルを掲げるフィーベースのアドバイザーにとって、リスク・リターン効率の高いオルタナ資産を一定程度組み入れたポートフォリオを提案することで、長期目線で顧客利益の最大化につながるのだ。
そんなアメリカの資産運用ビジネスにおけるオルタナ投資の民主化の動向を探るべく、2026年1月に東京でIFA(Independent Financial Advisor/独立系ファイナンシャルアドバイザー)やその業界関係者を対象とした「IFAアカデミー第2回」が開催された(主催はKeyaki CapitalおよびMA Alternatives)。
セミナーには、野村総合研究所アメリカ(NRIアメリカ)の金融・IT研究部門長 吉永高士氏がスピーカーとして招かれ、「米国富裕層向けオルタナティブ投資の現状と展望」をテーマに講演。その後参加者によるディスカッションが交わされた。
アメリカ在住が34年におよび、その間、一貫して同国のウェルス&アセットマネジメント業界を含む金融ビジネスの変遷と深化を現地で研究し続けている同氏の講演内容から、日本の個人投資家も知っておくべき注目トピックスを一部抜粋・再構成してお届けする。
オルタナとは何の代替で、組み入れるメリットはどこにあるのか
アメリカでは1980年代前半から2010年代末まで約40年にわたり、「株式60:債券40」の「伝統的資産」配分を基本形として、それを2割ずつずらした5通りのポートフォリオのいずれかを提案するというのが対面投資アドバイザーの世界では常道でした。しかし2020年頃からオルタナがそこに組み入れられ、足元では「株式50:債券30:オルタナ20」という基本配分へと変化しつつあります。米最大手証券の戦略的資産配分モデルでも2019年以降は保守型から積極型の5段階のアロケーションで15~25%程度をオルタナティブ資産クラスに充当しています。
振り返ると1980年代からの40年間は、長期債利回りがおしなべて長期低下傾向を辿り、60:40の配分比率は、リスク・リターンの効率も良く、トータルリターンを狙ううえで十分に正当化できたわけです。ところが、2020年以降、アメリカですら、コロナ禍もあり、いわゆる“ジャパニフィケーション(日本のような超低金利が続く状態)”で長期債利回りが一時0.3%まで落ち込み、また株式の向こう10年間の期待リターンは直近20年間よりも低下するという見方も強まりました。その結果、従来通りに株式と債券だけで資産配分し続けること自体がポートフォリオ全体のリターンの押し下げを放置することになり、さらに2022年のように長期債利回りが下がり切った状態から上昇する局面では、大きなリスクが顕在化します。そこで株式・債券だけのポートフォリオのリターンの押し下げを食い止める、かつポートフォリオ全体のリスク・リターン効率を高める――といった運用上の一定の必然性や一定の合理性に迫られて、100万~1000万ドル規模の広範な富裕層の運用資産にもオルタナが組み入れられるようになったのです。
「ラップの中にオルタナも組み込む」変化のさなかにある
預り資産の残高に連動した手数料を顧客に払っていただく「ラップ」は半永久的に不滅だと考えていますが、アメリカにおいては投信のみで運用する「ファンドラップ」はすでに時代の役割を終え、大手でも取り扱いをやめるなど“オワコン化”しています。「ファンドラップ」は日本でも多くの金融機関が取り扱っていますが、現在は投信だけでなく個別証券もETFも組み込むことができるUMA(Unified Managed Account)に本社一任のラップは集約されてきており、そのなかでオルタナも組み込めるようになってきています(※アメリカのラップ事情については、『アメリカのファンドラップは「UMA」に移行している』の項で補足解説)。
アメリカではそもそも、日本円にして何百億円、何千億円といった規模の個人金融資産を保有するごく一部の超富裕層向けには、1970年代頃から機関投資家と同じ扱いでオルタナ資産が提供されていました。それが100万~1000万ドルといった資産規模の層にもRIAや証券会社を通じて1つの商品を最低10万ドル程度の金額からオルタナが利用できるようになったのは2010年頃からのことです。さらに、最近では小口化が進んで1万ドルかそれ以下の単位からも購入できるようになりました。まずは大手証券らが証券口座で提供を可能にし、フィーベースのUMAでも2025年から提供を開始するところが相次いでいます。並行してオルタナ運用会社と中堅中小以下の販社を繋ぐ専用プラットフォーマーも出てきており、アドバイザーが数人規模のRIAでも取り扱いが可能になっています。
広範な富裕層へ提供されるオルタナは、一定の流動性がある「ハイブリッド」中心
オルタナと一口にいっても、個人に向けた提供の形態や流動性の高低は一様ではありません。数百億円規模の資産を有する超富裕層のための資産管理会社やファミリーオフィス、財団等を対象としたものは流動性が低い「私募」のオルタナです。プライベートエクイティやプライベートクレジット(デット)、プライベートリアルエステート、インフラなど、7年から10年あるいはそれ以上の期間、流通市場でディスカウント価格で売却しない限り現金化できないケースが一般的です。
それとは対照的に、一般の個人投資家を対象として投信やETFの形態で提供され、伝統的な資産と同様に流動性の高い「リキッドオルタナティブ」と呼ばれるものもあります。これもアメリカでは20年以上前から運用されています。こちらはロング・ショートなど中味も流動性が高いもので運用されているものがほとんどです。こちらの方は、現在の「オルタナの民主化」の動きと連動して大きく残高が増えている傾向は見られません。
さらに、これら私募オルタナとリキッドオルタナの中間にある「ハイブリッド」が直近の「オルタナの民主化」のなかでは広く使われるようになりつつあります。具体的に言うと「インターバルファンド※1」、「BDC(Business Development Company)※2」、非上場REIT等の形態が該当し、それぞれがプライベートエクイティ、プライベートクレジット、プライベートリアルエステート、インフラなどのアセットクラスに投資します。これらには一定の流動性があり、例えば3カ月に1回の頻度(インターバル)で、純資産の5%程度を上限に引き出しが可能です。
※1 一定の流動資産比率を維持しつつ四半期単位ごとに一定期間で解約が可能な非流動アセットクラス向けクローズドエンドファンド形態のオルタナ私募商品。
※2 未上場の中堅・中小企業への投資が可能なクローズドエンドファンド形態の1つ。公募・非上場タイプあり、広範なマス投資家も利用可。
1つ目の棒グラフはオルタナ資産の残高推移で、次の円グラフは2024年末時点の残高の内訳です。プライベートファンド(プライベートエクイティや不動産など)とヘッジファンド、リキッドオルタナ、さらにインターバルファンド・BDCに大別されますが、推移のグラフをご覧いただくと、過去10年間でヘッジファンドやリキッドオルタナが緩やかな増加にとどまるのに対し、ヘッジファンドを除くプライベートファンドが大きく伸びています。また比率こそ小さいもののインターバルファンド・BDC等の残高もこの数年で拡大しています。3つ目のグラフはこれらだけを抜き出したものですが、マーケットがほぼなかったような頃から、広範な富裕層がオルタナ投資の「器(うつわ)」として急速に使うようになったことを反映し急増しています。
●世界のオルタナティブ資産残高推移(2011-2024年末)
●世界のオルタナティブ資産残高の内訳(2024年末)
●米国セミリキッド・オルタナ純資産残高の推移(2014-2024)
オルタナは伝統資産以上に玉石混交の世界!? アドバイザーに求められることは
広範な富裕層によるオルタナ資産への投資は、集中投資ではなく、先述のような「50:30:20」の「20」部分に抑えるような分散投資ポートフォリオでの利用が想定されています。フィーベースのラップの新規提案やリバランスのプロセスにも組み込まれることで、普及がさらに加速していくことが見込まれます。ただし、留意すべきは、伝統資産よりもファンド毎のパフォーマンスも千差万別であり、アセットクラス毎の平均的なリターンを複製することすら容易ではありません。ただオルタナを組み込みさえすれば期待リターンが上がるとか、ポートフォリオ全体のリターン・リスク効率が上がるといった単純なものではありません。オルタナ資産ファンドには経費率が300bpを超えるものも珍しくなく、それが大きな原因となって費用控除後のリターンが上場株を下回ることも少なくありません。オルタナ資産を調達してくる人たちには、伝統資産に求められるよりも、はるかに高度に洗練された目利き力と責任が問われます。
例えばフィーベースのラップに組み込む株式・債券のアクティブ投信の世界では、仮に6割程度がデューデリジェンス※3の一次選考のフィルタリングで除外されるとしましょう。オルタナ資産の場合はさらに厳しく8割が入り口段階で除外される世界です。したがって残りの2割からさらに“玉”を見つけて、そこからもっと絞り込むということをアドバイザリー業務に携わる商品選定担当者は行う必要があるのです。
※3編集部注:投資や取引を行う前に対象の資産や企業などを詳細に調査・評価して、リスクと価値を把握すること。
アメリカのファンドラップは「UMA」に移行している
さきほど「ラップは不滅だが、アメリカではファンドラップがオワコン化した」と言いました。アメリカには、ラップ口座が6種類あります。最初のラップは1975年の株式手数料自由化とほぼ同時に始まった「①SMA(Separately Managed Account)」です。日本では投信だけで運用するラップも「SMA」として提供されているものがありますが、SMAとは本来、本社で運用する「個別証券の一任運用」を指します。この定義は現在も変わりませんし、投信で運用する「SMA」はあくまでもファンドラップの一種です。アメリカではその後に本社一任として投信で運用する②ファンドラップと、ETFで運用する③ETFラップが誕生しました。これら運用対象の違いにより3種類のラップがばらばらに存在するのは顧客にとっても担当アドバイザーの利便性にとっても意味がなく、本社から見ても非効率であるということで、個別証券一任運用(SMA)、投信、ETFの3種を用いて分散投資ができるよう1つに統合したものが「④UMA(Unified Managed Account)」です※4。
※4編集部注:アメリカには他に本社一任ではない⑤は外務員ラップ(一任)、⑥は外務員ラップ(非一任)があるが、本稿では割愛。
UMAでは、投信、ETFだけでなく、個別証券一任運用のSMAを部品としても使います。いまでは投信で運用するファンドラップと、ETFで運用するETFラップはUMAに集約されています。その結果、大手証券を含む多くのアドバイザー所属先がすでにファンドラップやETFラップの提供を行っていません。個別証券一任運用のSMAを組み込むことで、アカウントの中で損益通算による税引後リターンの押し上げ機会が投信やETFだけで運用する場合に比べても格段に拡がるという点もUMAが顧客に利用される大きな理由になっています。
またUMAの中にオルタナ資産クラスを組み込むという動きは、2025年がその元年となりました。そこに組み込まれるものは先ほどのハイブリッド型と呼ばれるようなセミリキッドのインターバルファンドやBDCファンドが中心で、2026年はさらにその動きは加速していくと見ています。
Finasee編集部
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