「亡くなった人の口座は凍結される」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。親が亡くなった場合、子どもがそのお金を引き出せるようにするためにはどうしたらよいのでしょうか。Aさんのケースを見てみましょう。
親が亡くなったあと、通帳を持って銀行に行くと……
Aさんはある日突然、同居していた母親を不慮の事故で失ってしまいました。父親も早くに亡くしていたAさんにとって、それは非常につらいできごとでした。しかし、悲しみに暮れる暇もなく、お葬式やお墓の準備などに追われることに。
Aさんは過去に働き過ぎて体調を崩したことがあり、現在は週3回のアルバイトをしながら、おもに母親の収入を頼りに生活してきました。貯金も少ないことから、葬祭費用や今後の生活費をまかなうため、遺品整理をしているときに見つけた母親の預金通帳を持って銀行に行くことにしました。
銀行口座には約500万円が入っていて、それがあれば当面必要な費用をまかなうことができるはずでした。しかし窓口で「亡くなった母の通帳なのですが……」と伝えたところ、なんと、その口座は凍結され、お金を引き出せない状態になってしまったのです。
口座が凍結されるタイミング、凍結が解除されるタイミング
亡くなった人の預金には相続が絡むため、各金融機関では相続人の誰かが勝手に引き出してトラブルになるなどの事態を防ぐために、一時的にお金を引き出せない状態にします。これが俗に「口座凍結」と言われている状態です。
【凍結】銀行が口座名義人の死亡を知ったとき
銀行口座が凍結される(お金が引き出せなくなる)のは、銀行が口座名義人の死亡を知ったタイミングです。冒頭のAさんのケースでは、Aさんが窓口で母が亡くなったことを告げたときです。役所に死亡届を出しただけの段階では、まだ凍結されません。
【解除】相続関係の手続きが済んだとき
では、凍結された口座から再びお金が引き出せるようになるのはいつなのかというと、それは相続問題が片付いたタイミングです。具体的には、相続する人全員で遺産分割協議を済ませ、遺産分割協議書や遺言書、戸籍謄本や印鑑証明書など必要書類を銀行に提出したときです。口座名義人が亡くなってから数ヵ月はかかるのが一般的です。
口座凍結で困ったときの対処法
以前は、相続関係の話し合いが終わって手続きを済ませるまでは、口座は完全に凍結されてまったくお金を引き出せない状態になっていました。しかしそれではAさんのようなケースで困窮してしまうことがあるため、2018年7月に法律が改正され「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」ができました。
遺産分割前の相続預金の払戻し制度とは
相続関係の話し合いがまだ済んでいない状態でも、預金の一部だけならお金を引き出せる制度です。窓口に行く人の印鑑証明書や相続人全員の戸籍謄本などは必要ですが、「預金額×3分の1×払戻しを行う相続人の法定相続分(1つの金融機関につき150万円が上限)」までなら引き出せるようになりました。
より大きな金額が必要な場合は、家庭裁判所に申し立てることでその判断に応じて預金の全額または一部を引き出せる場合もあります。
ちなみに口座名義人が亡くなっていても、それを銀行に伝える前なら、事前に聞いておいた暗証番号を使ってATMでお金をおろすことも可能です。ただこの方法は、あとから親族間で問題になって相続争いを泥沼化させる可能性もはらんでいますので要注意です。
まとめ
銀行口座は、口座名義人が亡くなっていることを銀行側が知ったタイミングで、お金を引き出せなくなります。お金を引き出すためには、親族間で相続について話し合って結論を出したうえで、必要書類を集めて手続きすることになります。
口座が一度凍結されてしまうと、また出金できる状態に戻すまで時間も手間もかかります。そのお金がないと困る場合は「遺産分割前の相続預金の払い戻し制度」を活用することも検討しましょう。
執筆・馬場愛梨(ファイナンシャルプランナー、ライター)
(2022年5月22日公開記事)