《株で勝てる人と勝てない人は一体どこが違うのか? 実は、どちらにも「共通点」があります。30年以上の実績をもつファンドマネージャーが「一流の投資家」の条件を明かす【情熱の株式投資論】》
人はなぜ自国に投資するのか?
「ホームカントリー・バイアス」という言葉をご存知でしょうか?
これは、「どんな国の投資家でも自国市場への投資を高める傾向にある」ことを言います。日本人であれば日本株に、アメリカ人であればアメリカ株に過度に投資する傾向にあるということです。
どうしてそうなるのでしょうか? これには、いくつかの理由があると思います。
まず考えられることとして、「ほとんどの人は生まれた国で老後を過ごす→老後の資金は自国で消費することを前提に備えることになる→インフレによる将来の資産の目減りを防ぐために、自国に投資する」ということがあるでしょう。
次に考えられるのは、為替リスクを回避したいという動機です。海外の株式に投資することは株価リスクに加え、為替リスクを負うことになります。できるだけ不確定な要素を排除したいという思いから生まれる動機と言えます。
そして、人間の心情として「なじみのある企業に投資したい」という気持ちがあります。日本人にとってなじみがなく、言語の壁があるために企業の情報が取りにくい海外の企業に投資することには、抵抗があるものです。
また、ポートフォリオ理論やファイナンス理論は主にアメリカで研究がなされたということも、いくらか影響を与えていると思います。
盛んに研究された時期のアメリカの株式リターンは高く、ほかの国へ投資しても分散効果はあまり得られませんでした。むしろアメリカ株だけに投資していたほうが良かったという結果も出ています。
新興国市場についても、リスク(株価の変動)は高く、いわばジェットコースターのように株価が変動したので、タイミングを間違えると分散効果は発揮できませんでした。
こうした背景もあって、積極的に自国以外に投資することを勧める風潮がなかなか生まれず、結果的に自国への投資を高める傾向が広まっていったのではないでしょうか。
自国への投資はいいことなのか?
ところで、果たして、自国の市場への投資を高めることはよいことなのでしょうか? その疑問に答えるために、上で挙げた理由の正当性を検証してみたいと思います。
まずは最初の理由「将来のインフレを避けるため」について。これは、ある意味では正しいと言えるでしょう。今の日本ではインフレと言ってもなかなかピンと来ないかもしれませんが、将来的にインフレが進む可能性については誰も否定できません。
日本におけるインフレが進み、価格転嫁がうまく進めば、日本の企業収益の伸びも期待できますので、インフレによる実質的な価値の目減りを防ぐ目的で、日本企業に投資する正当性はあります。
ただ、日本は消費の多くを輸入品に頼っていますので、海外のインフレ・リスクにも配慮しなければなりません。日本の企業だけでは100%のインフレ・ヘッジ(インフレに対する保険)にはなりません。
次に、為替のリスクについて。そもそも為替の変動率は株価の変動率に比べると小さいので、為替リスクを理由に海外の株式に投資しないということ自体に正当性があるとは言えません。
また、なじみのある企業だけに投資したいという気持ちは十分理解できますが、自分が知っているのかどうかということと、投資リターンには何の関係もありません。海外の個別企業の情報が少ないのであれば、投資信託やETF(上場投資信託)を使う手もあります。
少子・高齢化に苦しんでいる日本が長期的には高い経済成長を達成できそうもないことは、すでに定説です。低成長の中で、自分の投資先企業だけが大きな利益を上げる、と考えることには無理があると言わざるを得ません。
リターンとリスクを考えて資産配分を決めるというのであれば、日本株だけを多く持つという理由は成り立たなくなるのです。
アメリカ株に投資しよう!
株で儲けている人はアメリカ株の動きにも注目しています。
しかしながら、アメリカ株に投資している個人投資家にお目にかかることはあまり多くありません。ほとんどの人は日本株だけをやっています。日本人なんだから、日本株に投資するのは当たり前かもしれません。
ただ、不思議なことに「なぜアメリカ株を買わないのか?」と質問すると、返ってくる答えは決まって「私はアメリカ株のことを知らないから」なのです。それって、本当ですか? よく考えてみてください。みなさんが知っているアメリカ企業は、たくさんあるはずです。
ちなみに、今日はどこでコーヒーを飲みましたか? スターバックスのほかにも、マクドナルド、アマゾン、プロクター&ギャンブル(P&G)、エクソン・モービル、マイクロソフト、フェイスブック、アップル、グーグル……などなど、いくらでも出てきます。そう、知らないと思い込んでいるだけなのです。
マスコミの取り上げる頻度が日本株に比べて少ないことも、アメリカ株に投資しない理由かもしれません。
なぜアメリカ株に投資するといいのか?
さて、私は「数字(データ)」や「論理(りくつ)」にはこだわりたいと思っていますので、この2つについて説明していきます。
まず、「数字(データ)」です。アメリカ株の1990年末から2020年末のリターンは、アメリカの主要株価指数であるS&P500で見た場合、30年間で「11.4倍」になりました。「10倍株(テンバガー)」が多くあるのは当たり前です。
一方、日本はどうでしょうか? TOPIX(東証株価指数)で見た場合、同期間でリターンは「1.0倍」でした。つまり、30年間で成長が見られなかったということです。こんなに低いリターンでは、「10倍株」を見つけるのは非常に難しいですね。
では、なぜアメリカ株は安定して、高いリターンを実現できたのでしょうか? 次に、「論理(りくつ)」面から見てみましょう。
・世界的な企業
ハリウッド映画は、なぜあんなにも高い予算で映画を製作できるのでしょうか? それは「全世界」が市場だからです。国内だけでなく海外にも進出できれば、それだけ売上”が伸びることになります。
残念ながら、現状では、世界的に通用する日本企業は一部のメーカーに限られています。それに対してアメリカには、世界的な企業が数多くあります。さらに、世界的に通用する可能性を持っている企業も多くあります。
・世界最大の経済大国
もしアメリカ株に投資すれば、当然、アメリカ経済にも関心が出てきますよね。自分が投資している企業が属している国の経済状況はどうなっているか、知りたいはずです。それが重要です。
アメリカは世界一の経済大国です。日本株のニュースで「昨日のニューヨーク市場における株高を好感して、今日の東京市場は上昇しました」というフレーズを聞いたことがありませんか? アメリカ経済の世界経済への影響力は計り知れません。
つまり、アメリカ経済やアメリカ株を知ることで、日本やほかの国の株式投資にも非常に役立つのです。
・経営陣の質が高い
日本には「経営のプロ」が非常に少ないと言われています。
実際、日本企業の経営者の平均レベルはアメリカを大きく下回っていると思います。アメリカであれば、ビジネススクールで経営のノウハウを勉強し、経営者としてのキャリアを積んで、経営のスキルを身につけていきます。「理論」と「実践」で経営を学んでいくわけです。
一方、日本の場合はどうでしょう? 出世競争で一番に上りつめた人が社長になっているのが一般的です。「経営のプロ」が社長になるとは限りません。
私が考えるに、「良い経営者」というのは、「将来のビジョンを示せて、自分の行動に責任の持てる人」です。あなたの会社の社長はどうですか?
・株式文化
長い間、日本企業の資金調達は借り入れに依存してきました。株式は持ち合いで、株主は「物言わぬ投資家」と言われてきました。その一方で、株式投資はギャンブルと同等に扱われ、「株をやっている人はお金に汚い」と思っている人はいまだにいます。
さて、アメリカはどうでしょうか? 株主からのプレッシャーが強いため、企業のトップは株価をいつも意識し、株主への情報公開にも積極的です。また、個人の資産形成には株が重要な位置を占め、国民が株に慣れ親しんでいます。株をギャンブルと言って毛嫌いすることはありません。
このように、アメリカ社会そのものが株との強い関係で成り立っています。したがって、金融政策においても株価は重視されます。
・起業家精神
アメリカからは多くの革新的な企業が生まれています。
日本人は改善・改良は得意ですけれども、創造性に乏しいと言われています。日本では、「2度失敗する人間は3度目も失敗する」と失敗をネガティブにとらえますが、アメリカでは、「2度失敗したのだから次は成功するだろう」と失敗をポジティブに受け止めてくれます。
・日本株投資への示唆
アメリカ企業をヒントに日本株投資をすることもできます。
「タイムマシン戦略」という言葉を聞いたことはありませんか? これは、アメリカで流行ったものは、何年か後には日本でも流行るという仮説に基づいた経営戦略です。この考えは株にも応用できます。アメリカで上がった株は日本でも上がる、というわけです。
たとえばギャップ<GPS>は、「ベーシックでカジュアルなスタイルを提供する」というコンセプトでブランドを築いてきた、アメリカを代表する小売業者です。1980年代から90年代にかけて株価が大幅に上昇し、何十倍にもなりました。
一方、ファーストリテイリング<9983>は、いつでも、どこでも、だれでも着られるベーシックで低価格なカジュアルブランド「ユニクロ」を提供する小売業者。この両社は非常に似ていませんか?
ADRでアメリカ市場に投資する
アメリカ株に投資するにあたっては、投資信託やETFを購入するのも手軽に始められるでしょう。それに加えて、あまり知られていない方法をご紹介します。それが「ADR」です。
ADR(American Depositary Receipts/米国預託証書)とは、「米国外の外国企業や外国政府、あるいは米企業の在外法人子会社などが発行する有価証券に対する所有権を示す証書」のことです。くだけて言うと「アメリカ市場で売買される外国企業の株式」のことで、もちろん日本企業のADRもあります。
アメリカ以外の国の企業が、アメリカ国内において株式で投資家から資金を集めようとする場合、通常ですと株券の受け渡しに手間が掛かります。配当金についても、例えば日本企業であれば円建てで支払われるのが通常なので、アメリカの投資家には不便が生じていました。
こうした不都合の解消を狙いとして生まれたのがADRです。米ドル建てで売買・決済され、配当金を米ドルで受け取ることができます。保管もアメリカ国内で行われます。
このADRはアメリカの証券取引委員会(SEC)に登録され、アメリカの有価証券として扱われています。アメリカに上場している外国企業は、SECへの定期的なディスクローズ(情報公開)が義務付けられていますので、ADRは通常、一流の証しでもあるわけです。
野球に喩えるならば、株式におけるアメリカ市場はメジャーリーグ(MLB)です。
メジャーリーグには世界一流の選手が集まっています。そこで活躍するのはアメリカ人だけでなく、中南米諸国の選手も数多くいますし、もちろん日本人選手も活躍しています。国籍に関係なく、一流の選手が集まっているのがメジャーリーグであり、選ばれた日本人しかプレーできない場でもあります。
同じように、アメリカ市場には国籍に関係なく世界中の一流の企業が集まりますが、選ばれた外国企業(アメリカ以外の企業)
「アメリカ株投資」と言った場合、アメリカの企業だけを想定するかもしれません。しかし、いまやメジャーリーグを代表する選手として日本人の名が挙げられるように、アメリカ企業だけがアメリカ市場に上場しているわけではありません。アメリカ企業がわからないなら、ADRに注目しましょう。
ADRは、一般のアメリカ企業の株式と同様にニューヨーク市場やナスダック市場で取引されており、日本の証券会社でも、アメリカ株の取り扱いがあればADRを売買することができます。
日本一より「世界一の企業」に投資しよう
いかかでしょうか? 日本企業以外にも投資対象を広げようと思ってもらえましたか?
私自身はいつも、「日本一の企業」よりも「世界一の企業」に投資したいと考えていますので、国籍に関係なく世界中の株を投資対象にしています。
たとえば、半導体製造装置において東京エレクトロン<8035>は悪くないですが、アプライド・ マテリアルズ<AMAT>やASML<ASML>と比べると見劣りしてしまいます。つまり、私にとって東京エレクトロンは「買ってもいい会社」ですが、「買わなければならない会社」ではないということです。
もちろん、自分の儲けよりも日本企業を応援するために日本株に投資したいということであれば、それも投資のあり方でしょう。しかし、せっかくお金を投じて資産形成をするのであれば、ぜひともアメリカ株投資に目を向けてみてください。
(2021年9月24日公開記事)