ここ数年でキャッシュレス決済は私たちの生活に急速に浸透してきました。キャッシュレス決済には記録が残ることや現金を持ち歩かなくてもいいことなど多くのメリットがありますが、知らないうちに使い過ぎてしまうといった落とし穴もあります。今回はキャッシュレスで使いすぎる理由とその対策を3つご紹介します。
キャッシュレス決済で知らないうちに出費が増える理由
お金を払うことは苦痛
欲しいものを買ったり食べたいものを食べたりすると幸せな気分になりますが、みなさんは普段好きなものを好きなだけ買っているわけではないはずです。いいものを安く買えたら嬉しいですし、高いものでも質が悪ければがっかりします。
これは、お金を払うことが人にとって「痛み」を伴い、その苦しさに見合う満足度を求めているからです。
クレジットカードが痛みを和らげる仕組み
キャッシュレス決済はお金を使った時の「痛み」を和らげてくれます。例えば、キャッシュレス決済の中で最も普及しているクレジットカードでの買い物を考えてみましょう。
前から欲しかったパソコンをクレジットカードで買うとき、今まさにお金を払っているという実感はあるでしょうか。多くの人は、今は手続きをしただけで、実際の支払いは1、2ヵ月後の引き落とし日と感じるはずです。
一方、利用明細書が送られてきた時、これから支払うぞと思う人は少ないでしょう。支払いは数ヵ月前の買い物の時点で終わった気になっているのです。
このようにクレジットカードでは、購入と支払いのタイミングがズレることで支払いの苦痛を和らげているのです。
プリペイド(前払い)はどうか
プリペイド式なら使いすぎる心配はないと思う人もいるかもしれません。しかし、プリペイド式にも落とし穴はあります。
プリペイド式では事前にお金をチャージしますが、このチャージの時に「お金を使った」と感じる人はいないでしょう。ただお金を移動しただけです。
しかし、例えば2万円でAmazonギフト券にチャージすると、そのお金は食事や旅行ではなく「Amazonでの買い物用」として分類されます。いったん分類されると支払いが済んだように錯覚するので、買い物への罪悪感がかなり減っているはずです。
実際、普段服を買うとき、いろいろな店やサイトで比較している人でも、ギフト券があるならなにも考えずAmazonで買うのではないでしょうか。
電子マネーでキャッシュレスがより身近に
お金の支払いは罪悪感や不安といった痛みを伴いますが、本来であればそれらの苦しさを生み出す出費の見直しが大切になります。キャッシュレス決済は、出費の苦痛を和らげてくれるものの、実際に出費があることに変わりはありません。これは、頭痛の原因(出費)を放置して、頭痛薬で痛みを和らげているのと同じです。
最近普及してきた「QRコード決済」や「タッチ型決済」は、コンビニでの日常のちょっとした買い物にも利用できるほど便利で手軽です。今後ますますキャッシュレスは私たちの生活に浸透していきますが、お金を使う感覚が麻痺してしまうと、知らないうちに支出が増えていくかもしれません。
自分では無駄遣いしている感覚は無いのに、なぜか生活が苦しいと感じている人は、次の3つの対策を試してみてください。
知らないうちに出費を増やさないための対策3つ
自動引落しの見直し
キャッシュレスの中でも、自動引落は出費の痛みを最も麻痺させる方法です。今は使ってない会員サービスや雑誌の定期購読など、解約できるものは定期的に確認して解約しましょう。
1ヵ月の「キャッシュレス断ち」
自分がどれだけ痛みに鈍感になっているかを知るために、一度現金払いに戻ってみましょう。ずっとではなくてもまずは1ヵ月、できれば3ヵ月現金だけで生活してみてはどうでしょう。
支出が減れば、それこそ自分が納得できる本来の生活費です。キャッシュレス決済に戻ってもその生活費を目安にしてみてください。支出が変わらなくても、自分がうまくキャッシュレスをコントロールできているとわかるだけで、損することは何もありません。
給料日直後の先取り貯蓄
強制的に貯蓄する分を前もって別口座に移動してしまうのもおすすめです。ただし、足りない生活費を借金でまかなうと本末転倒なので、貯蓄をしても最低限の生活費が確保できて、借金の習慣がないことが前提です。
出費をコントロールしてキャッシュレス決済を取り入れよう
日本は国を挙げてキャッシュレスを推奨していますので、キャッシュレス決済は今後ますます身近なものになってくるはずです。しかし、便利さだけに注目すると、知らないうちに出費が増えるという落とし穴にはまります。支払いが便利になるからこそ、出費のコントロールを意識して行うようにしましょう。
文・松岡紀史
肩書・ライツワードFP事務所代表/ファイナンシャルプランナー
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、 帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。
(2021年4月28日公開記事)