iDeCoは「年金受け取り」よりも「一時金受け取り」のほうが一般的に手取りは多くなりますが、勤務先からの退職金がある人は受け取る順番に注意が必要です。
iDeCoを一時金で受け取ると退職所得控除が適用される
iDeCoを“年金”で受け取るよりも“一時金”で受け取るほうが有利なのは、受け取った金額から退職所得控除が差し引かれるからです。
iDeCoを“一時金”で受け取ると退職所得となり、退職所得は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」で計算します。
この「退職所得控除額」は勤続年数(iDeCoの場合は加入年数)によって、次のように計算します。
・勤続年数20年以下 40万円×勤続年数(80万円未満の場合、80万円)
・勤続年数20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)
たとえば、加入年数が10年ならば退職所得控除額は400万円、20年なら800万円、30年なら1,500万円です。
加入年数が30年の人がiDeCoで1,000万円の一時金を受け取る場合、退職所得控除によって退職所得がゼロになり、所得税がかかりません。
これに対して“年金”で受け取る場合は、雑所得として公的年金との合計額から税金が計算されます。65歳未満はiDeCo度と公的年金の合計が60万円、65歳以上は110万円を超えると所得税がかかります(雑所得以外の合計所得額が1000万円以下の場合)。
公的年金だけで年間110万円を超える人は多いため、iDeCoが上乗せされるとそのまま課税対象となる可能性が高いのです。
勤務先の退職金がある人は退職所得控除の調整に注意
勤務先からの退職金がある場合、iDeCoと退職金それぞれに退職所得控除が使えれば有利ですが、そう上手くいきません。
なぜなら、次のようなルールで退職所得控除の勤続年数を退職金とiDeCoの分で調整される場合があるからです。
先に「退職金」を先に受け取る場合、iDeCoを19年以内に受け取るとiDeCoの加入年数と勤務年数の重複期間は退職所得控除の勤続年数から差し引かれます。これとは逆に、「iDeCo」を先に受け取る場合、退職金を4年以内に受け取ると重複期間が勤続年数から差し引かれます。
「退職金」を先に受け取るケースでは、iDeCoとの勤続年数に調整が入らないようにするのはほぼ不可能です。
退職所得控除をフルに使えるのは、「iDeCo」を先に受け取り、5年以上空けて退職金を受け取るケースのみです。たとえば、iDeCoを60歳のときに一時金で受け取り、勤務先の退職金を65歳で受け取ると、iDeCoの加入年数と勤務先の勤続年数がそれぞれ退職所得控除に反映されるわけです。
退職金の受け取りが60歳と決まっている場合
しかし、退職金の受け取りが60歳と決まっているなら、iDeCoを同じ年に一時金で受け取るより、ずらして受け取るほうが適用される所得税が下がる可能性があります。
たとえば、勤続年数30年で全期間にiDeCoに加入していた人が60歳で退職金を1,800万円受け取り、iDeCoの資産が1,000万円だったとします。
この場合に60歳で退職金とiDeCoを同時に受け取ると、所得税は87万2,500円です。
60歳で退職金だけ受け取ると退職金にかかる所得税は、7万5,000円です。1年後にiDeCoの一時金を受け取ると退職所得控除は使えず、所得税は57万2,500円です。ずらして受け取った場合の所得税の合計は64万7,500円と、同時に受け取る場合より少なくなります。
退職金 1800万円・イデコ 1000万円のケース | |
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受け取り方 | 所得税 |
60歳で同時受け取り | 87万5000円 |
60歳で退職金、1年後にイデコ受け取り | 64万7500円(7.5万+57万2500円) |
このケースはあくまで一例であり、退職金やiDeCoの金額、勤続年数などによって結果は異なります。必ず試算して最善の受け取り方法を考えてみましょう。
文・松田聡子(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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