米国経済のスローダウンによって米国株式市場のけん引役が交代へ 〜「クオリティ」がパフォーマンスを左右する〜

2024/08/08 11:28

2024年後半の米国株式市場は、近づく利下げと経済成長の鈍化の両方を睨みながら、慎重に投資対象を選定する段階に入っていくと考えられる。2023年は、「マグニフィセント・セブン(M7)」といわれた超大型ハイテク株(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラ)が市場を
 2024年後半の米国株式市場は、近づく利下げと経済成長の鈍化の両方を睨みながら、慎重に投資対象を選定する段階に入っていくと考えられる。2023年は、「マグニフィセント・セブン(M7)」といわれた超大型ハイテク株(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラ)が市場を大きくけん引したが、24年後半からは、「M7」の勢いは衰え、「M7以外」の銘柄群のなかから、市場をけん引する銘柄が現れ、市場の物色の裾野が拡大するかたちで市場全体の水準が緩やかに上昇するようなイメージが想定されている。米国市場の見通しをアライアンス・バーンスタイン運用戦略部インベストメント・ストラテジストの柴戸康輔氏(写真)に聞いた。

◆年後半はいよいよ「利下げ」へ

Q1 米国の大統領選挙は現職のバイデン大統領が撤退し、選挙戦の行方が混とんとしているようですが、選挙が米国経済や市場に与える影響をどう考えますか?

 どちらの候補が勝ったとしても米国経済に与える影響は限られていると考えています。米国議会は民主党と共和党の勢力が拮抗し、また、両党とも決して一枚岩というわけではありませんので、政策によって協調や離反があって、大統領の意向をストレートに反映させるような大きな政策転換は難しいためです。

 ただ、トランプ氏が大統領に返り咲けば、方向性としては、関税強化や脱グローバル化路線を推し進めることになるでしょうから、インフレ(物価上昇)が長引き、金利が高止まりするような状況になる可能性を想定しなければならなくなると考えられます。

Q2 当初の想定よりも利下げ開始の時期が後倒しになっています。米国経済の実態は強いのでしょうか?

 強いマクロ環境を背景に、インフレの正常化に時間がかかっているというのが現在の姿です。2024年1−3月期には想定よりも強い消費の状態となり、利下げ開始時期が見直されることになりました。10年国債利回りは、昨年末3.8%の水準だったものが、4月末には4.7%程度にまで上昇しました。しかしその後は、徐々に消費も弱まってきています。4−6月期にはインフレ率も抑えられ、長期金利は4.2%程度の水準に下がってきました。

 これまで米国の強い消費は、コロナ禍に膨らんだ家計の余剰貯蓄が背景にありましたが、この余剰分は剥落してきています。また、AIの実用化を想定したIT投資の盛り上がりも設備投資をかさ上げしてきましたが、これも落ち着いてきています。

 根強かったインフレについても、その内訳をみると、すでに物品価格や住宅価格の上昇は沈静化し、残るのはサービス価格です。ここは、人件費の高騰が尾を引いていて依然として高い伸び率になっています。この人件費の伸びが収まれば、インフレも正常化することになります。ひっ迫していた雇用状況ですが、求人倍率がようやく落ち着いてきて、人手不足を訴えていた企業の割合も徐々に低下してきています。失業率の推移などを今後も慎重に見ていく必要がありますが、インフレ率について、再び危険な水準に上昇するという恐れは小さくなっていると考えています。

Q3 市場では9月に利下げ開始という見方が強いですが?

 私どものエコノミストチームも9月に0.25%の利下げを行い、年内にもう一回、0,25%の利下げを行うだろうという見方です。ただ、年内に2回の利下げを実施したとしても、依然として政策金利の水準は高いので、2025年にも利下げを継続するだろうとみています。現時点では、2025年には4回の利下げが実施されることを想定しています。

◆「利下げ」の下での株式市場は?

Q4 年後半から来年2025年に向けて利下げが続くという見通しであれば、米国の株式市場は引き続き堅調な状態が継続するのでしょうか?

 株式市場の先行きを悲観させるような状況にはないのですが、これまでの株高によってバリュエーション(企業価値評価と株価の関係)は割高な水準になっていますので、その調整圧力を受けながらの相場になると考えています。インフレが落ち着く背景として経済成長の減速があるため、2024年1−6月のようなスピードで株式市場が上昇することは難しくなると思います。

 米国の実質GDPの伸び率は2023年がプラス2.5%でしたが、2024年はプラス1.5%に減速し、2025年はプラス1.8%へとやや上向くものの、2023年の水準には届かないという見通しです。この経済の減速と、利下げによる業績押し上げ効果をセットで考えていく必要があります。ただ、予想される経済減速はインフレ退治のためにFRBが意図したものであり、現時点で想定される程度の減速であれば、過度に悲観的になる必要はないといえます。
 
 現在の株式市場は、ポジティブな材料で株価が上昇するより、ネガティブな材料によって株価が調整するということが、より起きやすくなっています。たとえば、決算発表で予想を上回る好決算を発表した企業の株価は平均的には上昇しているのですが、予想を下回る決算を発表した企業の株価の下落率は、好決算を発表した企業の株価の上昇率よりもその変化率が大きくなっています。マーケットではこれまでの株高でバリュエーションが割高な水準にあるということが認識されているため、ポジティブな材料よりもネガティブな材料に過敏に反応しやすくなっていると考えられます。

 企業業績そのものは、2024年も2025年も10%を上回る程度の増益が見込まれています。株価が横ばいか緩やかな上昇程度にとどまれば、好調な企業業績によってEPS(1株当たり利益)が積み上がることによって、現時点の株価の割高感が正当化されることになります。今後は、企業業績を確認しながら、企業の実態に合った株価が意識されるようになっていくと思います。

◆米国市場のけん引役を担う「クオリティ」

Q5 今後の米国株式市場の物色の方向性は?

 2023年に「マグニフィセント・セブン(M7)」と言われた大型ハイテク株7銘柄への集中投資が起こったのですが、2024年1−3月には分散化の傾向が強くなっていました。ところが、4−6月になって再び集中投資に戻りました。4−6月、「S&P500」は4.3%の上昇となったのですが、その4.1%に相当する部分はエヌビディアとアップルとアルファベットの3銘柄の上昇のみで説明できる状況でした。「M3」ともいえるような状態だったのです。3銘柄の時価総額は「S&P500」の16%程度の比率しかないので、その3銘柄だけで上昇分のほとんどが説明されてしまうというのは、異常な事態と言えます。

 しかし、今後は、市場のけん引役が変わっていくと考えています。「M7」への集中から、徐々に物色対象が「M7」以外の銘柄に広がっていくことになるでしょう。それは、企業業績の見通しからも予測されることです。「M7」と「M7以外のS&P500採用銘柄」のEPS成長率の水準を振り返ると、2023年までは「M7」のEPS成長率が圧倒的に高く、「M7以外」はほぼ横ばいという状況でした。その状態は、2024年前半までは続く見込みですが、2024年後半から2025年にかけては、「M7」と「M7以外」のEPS成長率が拮抗してくる見通しです。「M7」の業績が悪くなるということではないのですが、前の期の業績が良過ぎると、それを超えてさらに業績を伸ばすことは難しくなるのです。
 
 「M7以外」からけん引役として浮上してくるのは、「クオリティ」の高い企業になるとみています。継続的にしっかりと利益を出している企業で、借入金が少なく、バランスシートの良い企業です。今後、景気が鈍化するようなことがあってもキャッシュフローを生み出し続けることができる実力のある企業のなかには、「M7」の陰に隠れて割安になっているものもあります。そのような企業が見直される展開と考えています。

 「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」と「アライアンス・バーンスタイン・米国割安株投信」では、組み入れる銘柄を最終的に決定する際に、「グロース」という企業の成長性を重視するのか、あるいは、「バリュー」という割安であることを重視するのかという点で具体的な組み入れ銘柄が変わってきますが、両戦略ともに、投資対象となる銘柄群は、ビジネスの「クオリティ」が優れているかをみて厳選された銘柄から選んでいます。具体的には、「グロース」では企業の収益性に加え、成長が持続的に期待できる企業を、「バリュー」では収益性の指標としてフリーキャッシュフローが多く生み出している企業を見極めます。

 市場の環境は少しのきっかけで変わることもあるため、「グロース」と「バリュー」のどちらが優位な展開になるか、そのタイミングを予測することはなかなかできません。ただ、今後想定される、特に業績相場のような市場で「クオリティ」の伴わない銘柄に投資していると、思わぬ株価下落に遭遇するリスクが高いと言えます。両ファンドでは、クオリティの高い銘柄を見極めて運用してきたことで、「グロース」戦略でも、「バリュー」戦略でも、中長期に良好なパフォーマンスに繋がっています。「グロース」と「バリュー」の両方を保有することは、株式投資でより安定的な資産形成を目指す投資家にとって、有効な方法のひとつであると言えるでしょう。