アメリカが「小切手社会」ということは多くの人が知っているだろう。日本では日常的に小切手を使うことはないし、最近では「d払い」などQRコード決済の存在感が高まっているだけに、アメリカの状況が想像できない。アメリカ在住のライターに小切手事情について寄稿してもらった。
デジタルに精通している40代以下も小切手を使っている
先日、食料品の買い出しに行ったときの話だ。流れていたレジの列が筆者の前で止まった。何かと思えば、筆者の前のご婦人が「財布を忘れた」と騒ぎ出していた。バッグの中をごそごそしたこのご婦人が取り出したのは、スマホではなく「個人用小切手帳」だった。
アメリカでは「d払い」のようなQR決済はあまり浸透していない。クレジットカードやデビットカードは日本よりも早く浸透していたが、いまだに多くの人が個人用小切手帳を手放せないでいる。
そう聞くと「若い人は小切手なんて使ってないでしょう?」と思われるかもしれないが、実はシニア世代だけでなく、デジタルに精通した20代~40代でも案外小切手を頼っている人は多いようだ。
ミレニアル世代を中心とした6,000人を対象に行われた、お金についての調査によれば、42%のミレニアルがまだ小切手を利用することがあるという。ミレニアル世代とは1980年から95年くらいに生まれた世代、今ちょうど20代半ばから40歳くらいだ。
さらに驚くことに、この調査ではスマホ決済を使う人よりも小切手を使う人がほぼ3倍も多いことも分かっている(アメリカの顧客サービス管理会社、クアルトリクス社とベンチャーキャピタル、アクセル社の調査)。
調査はコロナ禍が広がる前に行われているので、今どうかは分からないが、大きく変化していることはないというのが筆者の実感だ。
ここ数年、クレジットカードの使用回数が増えているのは事実だ。2015年から2019年にかけて、カードの取引回数は年平均成長率8.9%で増加している。これに対して、小切手取引数は7.2%で減少している(出典:「2019年連邦準備制度による支払いに関する調査研究」)。
とはいえ、小切手は取引数こそ減っているものの取引総額は断然大きい。一般的に高額取引には小切手が使われていることも、この調査から分かっている。
小切手を使う理由とメリット
なぜ小切手を利用するかというと、まず挙げられる理由は、デジタル化に対応していないビジネスがまだ多いということだ。そんななかで、小切手は現金より安全性が高い。小切手は現金とちがい盗まれたり、なくしたりしても追跡や取り消しが可能だ。大金を持ち歩かなくてすむ。支払い記録も残る。
また費用が安く済むことも理由だろう。例えば税金の支払いではカード決済ができることがある、決済手数料を負担しなくてはならない場合がある。
その点、小切手は手数料はかからない。小切手帳も銀行や残高によっては無料でもらえることもある。有料であったとしても、せいぜい1枚あたり数十円だ。高額支払いするからといって小切手が高くなることはない。
あえて小切手をつかう意外な理由
こうした利便性だけが理由ではない。ギフトや寄付として贈る場合カードや現金よりも贈り手の気持ちを込められるのだ。
日本でも、お祝いのお金を渡す時など、かわいい祝儀袋を選ぶことはないだろうか。そうしたことが小切手でもできるのだ。
たとえば筆者の場合、甥っ子の誕生日にはワクワク感のあるカラフルな小切手を誕生日カードにはさんで郵送する。銀行に振り込んだり、メールでデジタルマネーを送ったりするのとは違って。手書きで名前、金額、サインを書くことで、身近に感じてもらえるという利点もある。
カードにはさまれた祖父母などからの手書き小切手を受取り感動した子供の頃の思い出を大切にする若者も案外いる。そして、次の世代に継承する。少なくても筆者の義家族はそうだ。
小切手のデメリットがなくなりつつある
さらに最近は、もともと小切手の短所とされていた点も解決されてきている。現金化するために銀行窓口に行かなくてもよくなった。銀行アプリから小切手をスキャンすることでどこからでも自分の口座に入金できるのだ。
とはいえ、小切手が衰退しているのはたしかだ。マイル・ポイント加算やキャッシュバックなどのサービス競争が激しくなり、クレジットカード利用は間違いなく増えている。¥日本より遅れをとっているとはいえ、「QRコード決済」も知名度を高めつつある。
しかし、小切手を残すためのテクノロジーも開発されており、アメリカから小切手が消えることは当分はないだろう。小切手はアメリカの伝統でもあり、アメリカはそうした伝統を守ろうとする国なのだ。
文/写真・美紀ブライト(米国在住のフリーライター)
編集・dメニューマネー編集部
(2021年7月10日公開記事)
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