繰り下げ受給すると受け取る年金は増えるが、制度の仕組みをよく知っておかないと損することもある。医療費の負担が増える場合があるからだ。繰り下げ受給を考えているのなら、本当にお得なのか見極めてからにしたほうが良さそうだ。
公的年金を繰り下げ、もらう額が増えると医療費負担が2倍になってしまう?
受け取る年金額を増やせる繰り下げ受給。その増額率は184%となる。しかし、せっかく年金受給額を増やしても、そのせいで医療費の自己負担割合が2倍になるかもしれない。
後期高齢者の医療費自己負担割合は1割→2割負担になる
これは2022年10月から、いわゆる「医療制度改革関連法」が施行されたため、75歳以上などの後期高齢者で一定以上の所得がある人は、医療費の自己負担が1割から2割に引き上げられた。一定の所得とは、単身世帯で200万円以上、75歳以上の夫婦世帯で320万円以上となる。
高齢者世帯が公的年金をどれくらいもらっているかというと、平均では年間199万円だ。もし75歳まで繰り下げてもらえる年金額が増え、さらにiDeCoや個人年金保険などでさらに所得を増やすと、医療費の自己負担2割は避けられない。
「一定の所得」を超えないためにすべきこと 年金の上手な受け取り方
それでは、「一定の所得」を超えないようにするにはどうしたらよいのだろうか。ねんきんネットのWebサイトで受給金額を試算するとよいだろう。自分が何歳から年金をもらえば、一定の所得に達しないかが分かるはずだ。
iDeCoと個人年金保険の注意点としては、年金形式で受け取ると所得に算入されることだ。
そのため、iDeCoは年金ではなく、一時金で受け取って貯蓄にしておこう。一時金で受け取ると退職所得控除の対象となり、所得税が一定まで優遇される。なお会社勤めではない自営業者でも、退職所得控除は使える。
個人年金保険も一時金で受け取れるが、年金形式よりも受取総額が減ってしまう。一定期間のみ受け取れる確定年金か有期年金にして、74歳までに受け取りを完了させるとよいだろう。
90%以上の高齢者が公的年金の「繰り下げ受給」を選択しない理由
2020(令和2)年度では約3,420万人が国民年金を受給する権利を持っていたが、そのうち繰り下げ受給を選択したのはわずか1.6%の約553万人だけということが、厚生労働省が発表した「令和2年度版厚生年金保険・国民年金事業年報」で分かった。以下では、考えられる繰り下げ受給が利用されない主な理由を紹介する。
繰り下げ受給をするまで老後の貯蓄が持たない
受給年齢を70歳まで遅らせようとすると、65歳から70歳までは公的年金以外の何らかの収入が必要だ。
収入がない場合、老後の貯蓄の取り崩しが進んでしまうことから、やむを得ず繰り下げ受給を断念するケースもあるだろう。
税金や社会保険料が増加してしまうから
受給する公的年金にも税金や社会保険料がかかり、額面通りの金額がもらえないことがある。
そのため繰り下げ受給によって公的年金額が増額すれば、税金や社会保険料がかかるため、手取りが増えたという実感がわかないことから繰り下げ受給を選択しないケースも考えられる。
加給年金やその他給付金が受け取れなくなることがある
厚生年金保険に20年以上加入していた人が、65歳のときに年下の妻や子供がいると加給年金が加算される場合がある。
しかし、繰り下げ受給を選択すると加給年金は受給できない。
住民税非課税世帯など低所得者向けの給付金も、繰り下げ受給で所得が増えると利用できなくなる可能性がある。
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90%以上の高齢者が公的年金の「繰り下げ受給」を選択しない納得の理由5つ
文/編集・dメニューマネー編集部