インターネット証券最大手のSBI証券は、2021年4月20日から、25歳以下の顧客に対して、株式の売買手数料を事実上撤廃しました。1日当たりの取引金額にかかわらず、現物取引の手数料を無料にするネット証券は国内で初めてです。
「信用取引」であれば売買手数料を無料にしても、金利収入を見込むことができますが、「現物取引」の場合は、そのような収入が一切ありません。どのような狙いを持って、現物取引の売買手数料の実質無料化に踏み切ったのでしょうか。
現物取引の売買手数料無料化の概要──26歳になる月までキャッシュバック
SBI証券は、「【600万口座達成記念】20~25歳現物手数料実質0円プログラム」と銘打ち、現物取引の売買手数料の実質無料化に踏み込みました。インターネットコースの個人で、20歳になる誕生月から26歳の誕生日を迎える月までの投資家を対象に、国内株式現物手数料を上限なしで全額キャッシュバックします。
キャッシュバックなので、完全無料化ではありませんが、実質無料化と言って良いでしょう。プログラムへのエントリーは不要で、キャッシュバック金額は、取引の翌月下旬頃に証券総合口座に入金される予定とのことです。
なお、20歳以下の投資家は、別プログラムにて、毎月1万円まで国内株式現物取引の売買手数料が全額キャッシュバックされます。こちらも2021年4月20日からプログラムが開始されています。
なぜ無料化したのか? 楽天の追い上げも影響か
SBI証券では、これまでも信用取引においては、条件を満たすと売買手数料が無料になりました。信用取引の場合は金利収入を見込めますので、売買手数料が無料でもビジネスが成り立つ可能性はあります。しかし、現物取引はそのような収入はありません。なぜ実質無料化したのでしょうか。
ひとつの理由として、世界的なトレンドが挙げられます。実は、世界経済の中心地であるアメリカでは既に、現物取引の手数料無料化が進んでいます。「ロビンフッター」と呼ばれる若年層投資家たちが利用するロビンフッドをはじめ、チャールズ・シュワブやインタラクティブ・ブローカーズなど多くの証券会社が手数料無料化に踏み切っています。
金融業界の歴史を振り返ると、アメリカで起こったことは時間差で日本でも起こってきました。手数料無料化の波が日本にもやってくることは、避けられないことだったと言えるでしょう。
ネット証券業界2位の楽天証券が猛烈な勢いで追い上げていることを考えても、SBI証券としては、600万口座達成のタイミングで、業界の先駆者である自分たちが、日本における手数料無料化の第一歩を始めたかったという気持ちもありそうです。
分厚い顧客層は「ホールセール事業」の強化にもつながる
リテール(個人投資家向け事業)の顧客層が分厚くなることは、IPO引受や社債発行などのホールセール(大手法人向け事業)の強化にも繋がります。
IPOや社債で資金調達したい企業にとって、どのような証券会社を主幹事にすべきでしょうか。色々な視点があると思いますが、一番は発行する株式や債券を確実に全て売り捌いて、確実に資金調達してくれる証券会社でしょう。
発行する株式や債券を全て売り捌くには、分厚い顧客層や強烈な営業力が必要です。そのような理由から、SBI証券や楽天証券が伸びていると言っても、ホールセールは野村證券をはじめとする対面型証券会社がまだまだ強いのです(正確には証券会社が一旦買い取ることが多いですが、自信を持って買い取れる理由は同様です)。
ネット証券が大手企業の主幹事を取れることはほとんどありません。しかし、手数料無料化が進めば、相対的に手数料が高い対面型証券会社にいる「懐の深い投資家」たちをどんどん奪うことができるかもしれません。そうなると、ホールセール業界におけるSBI証券(ネット証券)の発言力や存在感は今以上に増すでしょう。
松井・岡三オンラインが追随……今後どうなるのか
前述のように、手数料無料化は世界的なトレンドですので、日本でもますます無料化が進むことが予想されます。このSBI証券の発表を受け、さっそく松井証券と岡三オンライン証券が追随しました。両社とも、25歳以下の投資家の現物株式取引の売買手数料を無料化します。
SBI証券の今後としては、対象年齢の拡大や、キャッシュバックではない完全無料化を進めていくことが予想されます。
売買手数料が無料化になることは、基本的には、個人投資家にとって望ましいことです。なるべく高い運用パフォーマンスを実現するためにも、手数料無料化の動向は注目していきましょう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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