連載「これであなたも金融通 経済ニュースの読み方入門」第5回
今では世界中のニュースをほぼリアルタイムで読むことができますが、金融や経済のニュースは難しい言葉も多く、「結局このニュースを資産運用にどう活かせば良いのか分からない……」という人も多いでしょう。
この連載では資産運用初心者向けに、経済ニュースをどのように読み解いていけば良いか解説します。
「金融市場の正体」──21マスの上で、4人のプレイヤーが動いている
この連載を通じて、「金融市場」と呼ばれるものの正体は、21マスの上で、4人のプレイヤー(中央銀行、金融機関、機関投資家、個人投資家)によって行われるマネーの動きそのものと説明しています。21マスは以下の通りです。
米国 | 欧州 | 日本 | 中国 | 新興国 | |
為替 | 1 | 5 | 9 | 13 | 17 |
債券 | 2 | 6 | 10 | 14 | 18 |
株式 | 3 | 7 | 11 | 15 | 19 |
不動産 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
商品 | 21 |
今回は、この21マスの上で動くマネーの総量を決める特別なプレイヤー「中央銀行」の金融緩和の終了について解説します。
なお、米国にはFRB、日本にはBOJ(日銀)、欧州にはECBと、各国・各地域に中央銀行は存在しますが、特に断りがない限り、本連載においては「中央銀行=FRB」と思って下さい。本連載で幾度か述べていますが、金融市場において、米国は飛び抜けて重要な存在なのです。
金融緩和はもう止めてよい?
これまでの連載にて、中央銀行は4人のプレイヤーのなかで、自分でお金を刷ることができ、そのお金で他のプレイヤーを助けることができる「特別なプレイヤー」だと説明しました。
また、2006年頃をピークとした米国不動産バブル以降の金融市場15年史において、その時々の「市場のテーマ」は、ほぼ全てが中央銀行関連のテーマだったと説明しました。それは2021年6月の執筆現在も変わりません。
今は、各国の中央銀行がコロナ対策のために前代未聞の金融緩和を継続していることから、過去類を見ない巨額のマネーが21マスのうえで動いています。しかし、ワクチン接種がかなり進んだことにより、米国を中心に実体経済は急速に回復してきています。
中央銀行の関係者のなかには「もうそろそろ前代未聞の金融緩和は止めてよいのではないか」という意見が段々と増えてきているようです。
中央銀行が金融緩和を止めて、金融引き締めを始めてしまうと、21マスのうえを動くマネーの総量は減ってしまいます。それは、資産価格にネガティブな影響をもたらすため、多くの市場関係者が中央銀行の動向を注視しています。
注目のキーワード「テーパリング」
ここで皆さんに覚えて欲しい言葉のひとつが「テーパリング」です。
テーパリングとは、中央銀行が金融緩和状態から抜け出す過程で採用する戦略のひとつで、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくことです。マネーを水、中央銀行を水道の蛇口、21マスを水の受け皿と想像すると分かりやすいでしょう。
今は、受け皿に向かって水道の蛇口を全開にして、水を供給している状態です。テーパリングとは、その蛇口を少しずつ閉めていくことを指します。急に蛇口を全閉すると、全開に慣れていた受け皿側が驚いてしまいますので、ちょっとずつ時間をかけて蛇口を閉めていくのです。
テーパリングが重要視されるのは、それが金融引き締めの出発点だからです。金融緩和による上昇相場を謳歌してきた人間にとっては、「終わりの始まり」と言えるでしょう。
FRBが持つテーパリングに関する“苦い記憶”
実は、FRBにはこのテーパリングに関する“苦い記憶”があります。2013年5月に、バーナンキFRB議長(当時)がテーパリングを示唆すると、長期金利が急騰、世界中の株式市場や新興国通貨が大きく下落するなど、金融市場が混乱しました。
この事件は「テーパータントラム」や「バーナンキショック」とも呼ばれます。筆者はこの時、野村證券で営業マンをしていましたが、QUICK(金融関係者用の情報端末)に映る株価下落の様子を呆然と見つめていたことをよく覚えています。
これは、FRBが市場と対話不足だったことが発生の要因と言われています。そのため、今回のテーパリングは、市場へ十分に織り込ませたうえで発表されると思われます。
FRB高官は、メディアを通じて今後の金融政策に関する意見を発信します。ややマニアックな話になりますが、ハト派(金融緩和支持派)の高官からのテーパリングを容認する話が出たら、もう「Xデー」は目の前と考えたほうが良いでしょう。
中央銀行のテーパリング開始は、金融市場にとって一大イベント
ブルームバーグやロイター、日経新聞など大手経済ニュースサイトを見ると、テーパリングに関するニュースが目に見えて増えてきました。中央銀行のテーパリング開始は、金融市場にとって一大イベントです。
特に今回は、人類史でもまれに見るパンデミックの中でのテーパリングであり、歴史的な瞬間になるでしょう。経済ニュースを通して、歴史の証人になりましょう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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