個人向け国債
(財務省Webサイトより)

2024年から新しくなったNISA(ニーサ、少額投資非課税制度)は、運用益(売却益・配当/分配金)に税金がかからないことなどから、老後資金づくりの選択肢としても人気を集めています。

ただ、「人生100年時代」といわれる今、長期的な視点で、安定した資産形成をしっかり進めるために、NISAでの運用だけでなく、安全資産である「個人向け国債」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

NISAに集まる注目、だが老後資金づくりは株式や投資信託だけでいいのか?

「オルカン」「S&P500」といった言葉は、投資の経験がない人でも聞いたことがあるかもしれません。オルカンはオールカントリー、つまり世界中の株式に投資する商品。S&P500はアメリカの株価指数であり、投資信託の中にはこの指数に連動した商品があります。

2024年に新しくなったNISAは、株式や投資信託などに投資して得られた利益に税金がかからない、長期の資産形成を後押しする優れた仕組みで、これらの商品にも投資できます。

NISAについては、特に2024年から非課税で投資できる期間が無期限になり、年間の投資できる金額も最大360万円(成長投資枠、つみたて投資枠の合計)に増えるなど、大幅に拡充されました。

制度が新しくなる中、昨今の株価は上昇基調にあったため、先ほど挙げた2つの商品が特に人気を集めているわけです。

たしかにNISAは良い制度ですが、老後の資金づくりを目的にした場合、株式や投資信託で積極的に利益を狙うだけの投資では、万全とは言えません。

投資のリスク

なぜなら、投資にはリスクがつきもので、株式や投資信託の価格は短期的に大きく値下がりする可能性があるからです。

たとえば、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショックなどの局面では、世界中の株式市場で株価が大幅に値下がりしました。

歴史を振り返れば、このような市場の急変は過去に何度も起きています。

たとえば、会社を定年退職し、年金をもらえる年齢となり、「長年、投資してきた株式や投資信託の利益を現金化して、生活費にしよう」と思った、まさにそのとき、リーマンショックやコロナショックのような暴落に見舞われたら、どうなるでしょうか。

株価が上がり続けているときはよいものの、こうした暴落が起きた場合、生活設計が狂ってしまいます。実際、リーマンショックの前後でみると、アメリカの株価指数は下落前の半分程度にまで下がっています。

このような状況を避けるためには、投資をする際に、「リスクを抑える対策」を考えることが必要です。

堅実な運用のための分散投資の重要性

分散投資の重要性

リスクを抑える方法はいくつかありますが、その一つは「分散投資」です。株式や投資信託だけでなく、債券や預金といったリスクの低い資産にもお金を振り分けて収益の安定を目指す方法です。

複数の資産に投資することで、ある資産が値下がりしても、別の資産で補えます。たとえば、株式市場が下落しても、国債などの比較的値動きが安定した資産を保有することで、資産全体の価値の落ち込みを和らげる効果が期待できるのです。

このほかにも投資のタイミングを分散させる(時間の分散)、アメリカなど特定の国だけに投資しない(地域の分散)なども有効です。

いずれにせよ、投資で収益を安定させるには株式や投資信託のような値上がり益を狙える資産だけでなく、リスクの低い資産も取り入れる必要があるのです。

そこで注目したいのが「個人向け国債」

分散投資をするにあたり、NISAでの投資と並行して取り入れたいのが「個人向け国債」です。

個人向け国債は、国が発行する債券で、元本割れがない安全資産です。NISAで積極的に資産を増やしながら、個人向け国債で着実な土台作りをする方法も考えてみましょう。

個人向け国債の仕組み

個人向け国債は、国が発行する、購入対象者を個人に限定した債券です。債券とは国や企業が投資家からお金を借りたときに発行する、借用証書のようなものです。

個人向け国債を買うと、半年ごとに利子が支払われ、満期になると元本全額が戻ってきます(償還)。元本の償還と利子の支払いは国が責任をもって行うため、個人向け国債は、安心感が極めて高い金融商品です。

個人向け国債は毎月発行されており、発行される前月の募集期間中に金融機関で申し込めます。募集期間は発行条件の公表日の翌営業日(毎月5日前後)から、月末営業日までです。

個人向け国債は、紙製の証書などが発行されるわけではないため、なくしたり盗まれたりする心配はありません。購入した金融機関に取引内容が記録され、取引残高報告書などで確認できます(確認する方法は金融機関ごとに異なります)。

「個人向け国債」についてもっと詳しく知る

個人向け国債の4つの魅力

個人向け国債には、NISAとは異なる魅力がたくさんあります。ここでは4つに分類して紹介します。

魅力1 手堅い運用ができる──元本割れがない、利子が定期的に受け取れる

個人向け国債は、株式や投資信託より手堅い運用ができます。株式や投資信託は価格が上がったり下がったりしますが、個人向け国債は市場の金利が変動しても元本部分の価格は変動しません。

また、半年ごとに利子を受け取れます。そのため、NISAと組み合わせることで、収益性と堅実性のバランスが取れた運用を期待できるでしょう。

魅力2 中途換金しても元本割れしない(発行から1年経過後)

個人向け国債は、発行から1年が経過すると中途換金ができるようになります。1万円単位であれば、投資額の一部のみの換金も可能です。中途換金の際、直前2回分の各利子相当額が差し引かれますが、元本割れはしません。

1年経てば元本割れせずに投資額の一部のみの換金もできるため、急にお金が必要になったときにも安心です。

魅力3 1万円など少額から購入可能

個人向け国債は1万円から買えるので、初心者や少額から投資を始めたい人にも適しています。

また、購入金額の上限はないため、投資したい金額に合わせて購入できます。最初は少額から買ってみて、段階的に投資額を増やしてみてはいかがでしょうか。

魅力4 毎月発行されており、購入できるところも多い

個人向け国債は毎月発行されているので、ほぼいつでも買うことができます。たとえば、使う予定のない臨時収入があれば、預金する代わりに個人向け国債を買ってみてもよいでしょう。また、6ヵ月連続で購入すると、半年後から毎月利子を受け取れます。

さらに、証券会社や銀行など取り扱う窓口が多いため、身近な金融機関で手軽に購入できます。インターネットを通じて買える金融機関もあるため、忙しい人でも投資しやすい点は個人向け国債のメリットの一つです。

変動10年、固定5年、固定3年──満期までの“期間”と“金利”タイプで3種類ある

個人向け国債には、満期までの期間と金利タイプによって以下の3種類の商品があります。

商品名変動10年(変動金利型10年満期)固定5年(固定金利型5年満期)固定3年(固定金利型3年満期)
満期10年5年3年
金利タイプ変動金利固定金利
金利の設定方法基準金利×0.66基準金利-0.05%基準金利-0.03%
金利の下限0.05%(年率)
利子の受け取り年2回(半年ごと)
購入単位最低1万円から1万円単位(額面金額100円につき100円)
償還金額額面金額100円につき100円(中途換金時も同じ)
中途換金発行後1年経てばいつでも可能
※直近2回分の利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれる
発行頻度毎月
(出典:財務省「個人向け国債の商品性の比較」をもとに筆者作成)

「変動10年」(変動金利型10年満期)は受け取る利子が増減する

「変動10年」(変動金利型10年満期)は、実勢金利の変動に応じて半年ごとに適用金利が変わり、受け取る利子が増減します。実勢金利が上昇した場合、固定金利型では発行時に決められた金利は変わりませんが、「変動10年」では適用金利が上昇し、受け取る利子が増えることになります。

反対に実勢金利が下がると「変動10年」の適用金利も下がりますが、最低金利0.05%(年率)を下回ることはありません。

「固定5年」(固定金利型5年満期)と「固定3年」(固定金利型3年満期)は利子が固定

「固定5年」(固定金利型5年満期)と「固定3年」(固定金利型3年満期)は、ともに発行時に設定された金利が満期まで変わらない固定金利タイプの個人向け国債です。

買ったタイミングで、償還までに「いくら利子が受け取れるか」が確定するため、将来の予定を立てるのが簡単でしょう。

個人向け国債の注意点

安心感が魅力の個人向け国債にも、注意すべき点がいくつかあります。

注意点1 発行から1年間は中途換金できない

個人向け国債は発行されてから1年を過ぎると中途換金できますが、それまでは原則としてできません。個人向け国債は、1年以内に使う予定のない余裕資金で買うようにしましょう。

ただし、発行から1年以内であっても名義人が亡くなった場合などは、中途換金が認められます。

注意点2 中途換金をすると所定の金額が差し引かれる

個人向け国債を中途換金すると、「直近2回分の各利子相当額(税引前)×0.79685」が差し引かれます。ただし、元金は全額戻ってくるため、元本割れはしません。

注意点3 利子は非課税ではない

NISAでは利益に税金はかかりませんが、個人向け国債の利子は非課税ではありません。受け取り時に20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金が差し引かれます。

ただし、遺族年金を受けている妻、または身体障害者手帳を交付されている人などは「障害者などの非課税貯蓄制度(いわゆるマル優、特別マル優)」の適用を受け、非課税となります。

収益性と安定性のバランスの取れた運用を

NISAは非課税で投資できるメリットがある一方、投資する商品によっては元本割れのリスクがあります。老後の備えとしては“安定性”も重要であり、資産の一部にリスクの低い商品を取り入れると理想的です。

投資を考える上では、“増やす”ことだけではなく、“減らさない”こともあわせて考える必要があります。

NISAで積極的に利益を狙う場合、個人向け国債のような安全資産と組み合わせることで、より堅実な資産形成を期待できるでしょう。

「個人向け国債」についてもっと詳しく知る

文/監修・松田聡子(ファイナンシャル・プランナー)

松田聡子

群馬FP事務所代表。明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAを有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングで人生100年時代をマネーの面からサポート。

企画/構成・dメニューマネー広告制作チーム