「富裕層は法人(資産管理会社)を作って税金対策している」ということは、何となく耳にしたことがある人も多いでしょう。
しかし、その仕組みを理解している人は少ないのではないでしょうか。この記事では、「なぜ富裕層は法人を設立するのか」について解説します。
「富裕層の税金対策なんて自分には関係ない……」と思われるかもしれませんが、これは富裕層だけの特権ではありません。
富裕層が税金対策のために法人を設立する5つの理由
なぜ、富裕層は税金対策のために法人(資産管理会社)を設立するのでしょうか。理由はたくさんありますが、今回は以下の5つの理由を解説します。
理由1 法人税は個人の所得税と違って「累進課税ではない」
個人で収入を得た場合にかかる「所得税」は、“累進課税”といって、稼げば稼ぐほど税負担が重くなります。所得税の最高税率は45%で、加えて住民税10%がかかってしまいます。
一方で「法人税」は累進課税ではなく、どんなに稼いでも普通の会社は23.20%課税です。さらに、さらに資本金1億円以下の中小企業の場合、800万円までの利益は15%課税で済みます。
このような税率の違いから、なるべく所得を個人で受け取るのではなく、法人で受け取ったほうが、手残りが大きくなるのです。
理由2 経費の幅が広がる
法人であれば、経費として損金計上できる幅が広がります。損金計上されれば、利益が減るので、税負担も減ります。
法人でクルマを購入したり、役員のための社宅を借りたりできます。中小企業であれば、交際費も800万円まで損金計上できます。個人であれば最大4万円までしか控除できない生命保険料も、法人名義であれば多くの部分を損金計上することが可能です。
業務に利用していたり、法人の売上をあげるのに必要であったりしないと経費にはできませんが、できる限り法人の経費として計上することで、個人法人を合算した実質的な手残りを大きくすることが可能です。
理由3家族へ給与を支払える
家族を法人の役員や従業員として雇うことで、家族へ給与を支払うことができます。
前述のように所得税は累進課税なので、法人から1人で1,000万円の給与を受け取るよりも、「自分は600万円、配偶者は300万円、子どもは100万円」と分散させたほうが、トータルの手残りは大きくなります。
ただし、「金額に見合う業務に従事していること」が給与支払いの条件です。
理由4 退職金を支給できる
退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることから、税負担が大変優遇されています。詳細の計算式は割愛しますが、法人にプールしておいた資金を退職金として支払うことで、非常に税負担を低くしたうえで、法人から個人へ資産移転できます。
自分への退職金だけではなく、③のように家族を法人の役員や従業員として雇っていた場合は、その家族にも退職金を支給することができます。
理由5 給与支払いには「控除」「損金計上」というダブルのメリットがある
自分や家族に給与を支払っている場合、給与所得に応じた給与所得控除を受けることができます。例えば700万円の給与を受けた場合、給与所得控除は180万円なので、実際に課税されるのは520万円です。
なお、従業員への給与は損金計上できます。したがって、給与を自分や家族に支払うと、法人としては利益を圧縮でき、個人としては給与所得控除を受けることができるため、給与支払いにはダブルのメリットがあります。
富裕層でなくてもできる“人格ハイブリッド戦略”
法人を活用した税金対策は、資産や所得が多くないとできないというわけではありません。この話の要諦は、「法人という別人格を設立および保有し、時と場合に応じて個人と法人という2つの人格を使い分けて、実質的な手残りを最大化する」ということです。いわば“人格ハイブリッド戦略”と言えるでしょう。
具体的には、以下の3つの基本的なルールがあります。
(1) 収入を法人で受け取る
(2) 本来、個人から支払う出費を法人の経費に振り替える
(3)法人で家族を雇用して、給与や退職金で法人の資金を個人に還元する
サラリーマン(給与所得者)よりも、個人事業主(フリーランス)のほうが親和性が高いことは事実ですが、サラリーマンでも人格ハイブリッド戦略を使えないわけではありません。
法人名義で資産運用するのも手
株式投資や債券投資などの資産運用をしている人であれば、法人を設立し、その法人で資産運用することも手です。個人名義の運用益の課税は分離課税であるケースが多いですが、法人名義の運用であれば法人税の対象となり、他の損益と通算できます。
その法人で住居を借りることができれば、経費にすることができます。投資のために読んでいる新聞代や書籍代も経費になります。投資しようと思っている会社に勤める友人との食事代も、情報収集の一環として経費になるかもしれません。
資産運用から得られる利益額にもよりますが、運用益と経費をうまく損益通算することで、個人で資産運用するよりも実質的な手残りが多くなる可能性があります。これは、多くの富裕層でも活用されている方法です。
なお全文を通じて、本稿は違法性のある行為を推奨するものではありません。あくまでも合法的に手残りを多くする方法として紹介しています。判断に困る場合は、税理士に相談するとよいでしょう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
(2021年5月1日公開記事)
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