買い物や食事をスマホで買い、SNSで日常生活をシェアするのが当たり前の時代。特に若者を中心に広がる投資詐欺の実態を、被害に詳しい弁護士に取材したシリーズ。この夏考えたいテーマとして、5回の連載を連日掲載します。

文/取材・神部旬

ライター・映像プロデューサー、株式会社フロア代表／大学卒業後、テレビ制作会社に勤務、NHKや民放局の報道番組でディレクターを務める。その後、出版業界に転じて金融・経済誌の編集者や記者として、政治・経済・金融などの記事制作に携わってきた。

第1回　悪用されるSNS

「詐欺師は華やかなパーティーや高級スポーツカーの写真を載せて、『オレはこんな儲かっている』みたいな情報を拡散させます。それに興味を持った人たちがコメントすると、詐欺師から直接連絡が入るんです」──。

詐欺に関する弁護や啓発活動に務める杉山雅浩弁護士（ワンピース法律事務所代表）は、SNSなどを使った投資詐欺の被害にあう若者が増えていると指摘します。

最近、テレビや新聞、ネットのニュースで詐欺事件の報道が増えていると思いませんか？中でも若者世代が投資詐欺被害に巻き込まれたという内容が目につきます。

警察に詐欺の相談をする若者も増えています。世代別の相談件数を比べてみると、2017（平成29）年に9.4％だった20代（20歳未満も含む）の割合が、5年後の2022（令和4）年には15.8％にまで増えています。

割合だけでなく実際の件数も増えているようで、このように若者世代の被害が増えた大きな理由は、インターネットを悪用した詐欺の手口が広がっているからです。

杉山弁護士はまた、「買い物も食事もスマホで決済する若者はたくさんいます。高齢者よりも若者の被害が増えているのはネットに詳しい世代だからでしょう」と指摘します。

SNSは、外国に住んでいる人や、一度も会ったことがない人たちと、気軽に言葉を交わしたり、友達になったりする機会を飛躍的の増やしてくれました。これこそSNSの長所ですが、詐欺師はそれを逆手にとって、罠を仕掛けてくるのです。

暗号資産トラブルが急増

投資詐欺の中でも、暗号資産に関連した被害が急増しています。国民生活センターに寄せられた暗号資産に関するトラブル相談件数を見てみると、2019年には2,801件でしたが、2021年には6,374件と2年の間に2倍以上に増えています。

暗号資産のイメージは「大きなリスクはあるものの、成功すれば儲かる投資」というものでしょうか。たしかに暗号資産投資で資産を増やした人はいて、億円単位の資産を築いた“億り人”も生まれました。

しかし、そうしたイメージも悪用されていると杉山弁護士はいい、詐欺師の巧妙な手口について「きらびやかな『億り人』というイメージを有効に使いながら、気軽に借金ができるようにして、お金を持っていない若者世代を取り込みます」と警鐘を鳴らします。

手持ち資金が足りない若者たちには、資金調達の方法まで用意して、詐欺に引き込もうとするわけです。

「投資や副業が当たり前」の時代だからこそ注意が必要

収入が上がらない中で、ガソリン価格、電気代、食料品の値段など、さまざまなものが値上げされ、海外ほどではありませんが、いよいよ日本でもインフレが始まりました。

将来年金がもらえるのか、収入は増えるのかという不安を抱える若者世代が、投資や副業という方法で自己資産を増やそうと考えるのは当然のことでしょう。若者に限らず、今やサラリーマンの8割以上が副業を始めたいと思っているという調査結果もあります。

ただそこには「投資詐欺」という大きな落とし穴も潜んでいるのです。

詐欺被害で失ったお金を取り戻すことは、実は非常に難しいそうです。だからこそ、詐欺被害から自分を守る最大の方法は、詐欺にあわないようにすることです。そのためには、詐欺の傾向や、どんな人が騙されるのか、もし詐欺にあったらどうすればいいか、知っておく必要があります。

次回からは杉山弁護士に聞いた、「最近増えている詐欺の傾向」や「詐欺にかかりやすい人」「詐欺にかからないために必要なこと」をレポートします。

取材/文・神部 旬（ライター・映像プロデューサー）
編集・dメニューマネー編集部
画像制作・田之尻美希（デザイナー）

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