中国の不動産大手、恒大の危機が盛んに報じられていますが、一体何が起きているのでしょうか。「リーマンショック級」といったセンセーショナルな見出しがメディアで踊っていますが、あまり根拠のない、風説レベルのものも目立ちます。
中国恒大は不動産販売2位の大企業
まず「恒大」は不動産販売実績2位の巨大企業です。日本の若者には、強豪サッカークラブ、広州恒大のオーナーといえば通りがよいでしょう。その他、畑違いの電気自動車製造に進出するなど、積極的な多角経営で知られています。
創業者の許家印は、貧困家庭から身を起こした立志伝中の人物です。苦学して大学を卒業、サラリーマン生活を経て1996年、広東省・広州市で起業しました。
当時の広東省は、1989年に始まった改革・開放政策をリードし、熱気にあふれていました。恒大は、巧みな不動産開発で急成長を遂げ、ITのテンセント、通信機器のファーウエイとならぶ広東省の象徴企業となりました。
ここ数年、許家印は、アリババのジャック・マー、テンセントのポニー・マーらと、中国長者番付トップを争い、中国では知らぬ者のない有名人です。
中国・大都市の不動産は12年で8倍に値上がり
中国の不動産価格はここ十数年で急騰しています。
2009年、リーマンショック後の大規模経済対策によって、中国大都市の不動産は急上昇しました。わずか1年で2.2倍へ上昇しています(上海市の資料による)。さらに2020年には2009年の3.6倍になっています。12年間で8倍になったわけです。
上海の物件の1平方メートル当たり平均販売価格は、2020年で6万2000元(約106万8000日本円)です。つまり100平方メートルの物件で1億円を軽く超えます。
これに対し、同市の平均月収は6378元(約11万円)です。これで億ションなんか買えるはずがありません。
なお中国では共用部分も面積に算入するため、100平方メートルといっても日本なら70平方メートルくらいの物件をイメージしてください。
各地方政府は、たびたび不動産の購入を制限する政策(限購令)を導入し、価格を抑えにかかりました。典型的な政策は、住宅ローンの頭金比率を上げること、市外戸籍の人に転売用物件を販売しないことです。
また居住用以外の2軒目の売却益にかかる税金を、2倍にアップした都市もありました。そのため離婚が急増したという笑い話つきです。
そうした政策にも関わらず12年の長きにわたり、不動産価格は、しぶとく上昇を続けました。不動産市場は2009年以前に購入した、持てる者同士で売買を繰り返す、あやういバランスの上に成り立っていました。
一方不動産業界は、値上がりを前提にした借入れと開発が常態化しました。極限までひどくなったというのが正確でしょう。
それに対し、国内外から不動産バブルの指摘が寄せられ続けます。そこで中央政府は昨年9月、不動産企業の有利子負債を抑制するため、新たなレッドライン(超えてはならない基準)を設定します。基準未達の企業は、新たな借金ができず、当然、開発にブレーキがかかりました。
「恒大危機がリーマンショック級」は大げさだ
中国の不動産市場には、需要サイド、供給サイド、それぞれに限界が来ていました。恒大危機の本質は、こうした不動産市場の調整局面を、どう評価するかにあります。
現状は政府の自らまいた種が育ったわけで、当然、リスクは想定していたはずです。問題は恒大危機の拡がりが想定内であったかどうかです。
また業界4位の不動産大手「融創中国」の流動性危機も伝えられましたが、恒大も融創も開発物件はほとんど中国国内にあります。つまり中国政府が、誰にババを引かせるかコントロールできるわけです。
政府は、不動産バブルをつぶしつつ、金融システムを何とか持たせていくでしょう。具体的な救済策は、状況を見ながら小出しに発動されると思います。
したがって海外への直接の影響は、株式や社債などの持ち主、投資家の損害にとどまりそうです。
これをリーマンショック級とあおるのは、いかにも大げさです。
文・高野悠介(中国事情に詳しいフリーライター)
編集・dメニューマネー編集部
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(2021年9月29日公開記事)