連載「これであなたも金融通 経済ニュースの読み方入門」第11回
今では世界中のニュースをほぼリアルタイムで読むことができますが、金融や経済のニュースは難しい言葉も多く、「結局このニュースを資産運用にどう活かせば良いのか分からない……」という人も多いでしょう。
本連載では資産運用初心者向けに、経済ニュースをどのように読み解いていけば良いか解説していきます。
21マスのうえで、4人のプレイヤーが動いている金融市場
この連載を通じて「金融市場」と呼ばれるものの正体は、21マスのうえで、4人のプレイヤー(中央銀行、金融機関、機関投資家、個人投資家)によって行われるマネーの動きそのものと説明しています。21マスは以下の通りです。
米国 | 欧州 | 日本 | 中国 | 新興国 | |
---|---|---|---|---|---|
為替 | 1 | 5 | 9 | 13 | 17 |
債券 | 3 | 6 | 10 | 14 | 18 |
株式 | 3 | 7 | 11 | 15 | 19 |
不動産 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
商品 | 21 |
本連載にて、中央銀行はマネーの量を調節できる特別なプレイヤーであり、いま市場関係者が最も注目しているニュースのひとつは「テーパリングや利上げなどの金融引き締めの開始時期」だと再三述べてきました。
そのようななか、2021年8月下旬にジャクソンホール会議と呼ばれるシンポジウムにて、パウエルFRB議長が「経済が予想通り進展した場合、年内に資産購入ペースの縮小(テーパリング)を始めるのが適当」という旨の発言をしました。「経済が予想通り進展」とはどのようなことを指すのでしょうか。
ひとつに絞ることはできませんが、大きな要因が「雇用」です。それを見ていくにあたり、FRBはじめ多くの市場関係者が注目しているのが「雇用統計」という指標です。今回は、この「雇用統計」について紹介していきましょう。
雇用統計とは?
雇用統計とは、米国の雇用情勢を調べた経済指標のことで、基本的には毎月第一金曜日に、米国労働省から発表されます。様々な指標が発表されますが、特に注目されているのは失業率、非農業部門雇用者数、平均時給などです。
実は、失業率には全部で6種類あって、それぞれ対象とする範囲が違います。通常、失業率と呼んでいるのは「U3失業率」というものです。最も広義な失業率は「U6失業率」と呼ばれており、FRBも重要視していると言われています。ただ、資産運用初心者においては、あまりこれらは気にせず、まずは雇用統計ニュースの大きく書かれている失業率をチェックすれば良いでしょう。
米国の雇用統計は経済環境に強く連動する
当然、日本も雇用に関する統計を発表していますが、米国ほど注目されていません。なぜでしょうか。本連載で再三述べたように、経済の中心地は米国なので、そもそも米国は注目される存在であることに加えて、米国ならではの背景も関係しています。
ご存知の方も多いと思いますが、米国は˜雇用の流動性が高く、日本に比べて比較的解雇が容易です。一般的に、不景気になると、経営者は一定数の従業員を解雇して事業を縮小します。そのため、米国の雇用統計は、経済環境に強く連動します。したがって、雇用統計は重要視されているのです。
実際の動きを確認してみましょう。コロナがまだそこまで騒がれていなかった2020年2月の失業率は3.5%でした。極めて雇用環境は良く、米国経済は順調だったと言って良いでしょう。しかし、コロナに対するロックダウンが行われた2020年4月は14.7%まで跳ね上がりました。
毎月第一金曜日(10月は8日)の翌日は雇用統計ニュースをチェックしよう
その後、失業率は右肩下がりとなり、2021年7月は5.4%でしたが、コロナ前の水準には達していません。コロナ前の3.5%まで戻るのは難しいと思いますが、今後も雇用が順調に拡大していけば、年内に資産購入ペースの縮小(テーパリング)を始めることになるでしょう。
もちろん、雇用統計が全てではありませんが、雇用が拡大するということは、消費者の懐が暖かくなり、消費が活発になりやすいということです。第6回で述べたように、米国のGDPの約7割は個人消費です。ここからも雇用統計がいかに重要な指標であるか分かります。
雇用統計は基本的に、毎月第一金曜日に発表されます。10月8日の午後9時半ごろの見込みです。翌日の土曜日に新聞やニュースサイトを見れば、何かしらの記事が見つかるはずです。毎月欠かさずチェックするようにしましょう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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(2021年10月8日公開記事)