岸田首相の「金融所得課税の見直し」は株式投資家にどんな影響を与えるのか?

2021/12/30 12:30

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岸田文雄新首相が10月4日の記者会見で、金融所得課税の見直しを検討する意向を示したことが注目されました。なぜ金融市場関係者の話題をさらったでしょうか。また、これは株式投資家(株式市場)にどのような影響を与えるのでしょうか。 「金融所得課税の見直し」とは何か 金融所得とは、株式や債券、投資信託などの金融商品から得られるキ

岸田文雄新首相が10月4日の記者会見で、金融所得課税の見直しを検討する意向を示したことが注目されました。なぜ金融市場関係者の話題をさらったでしょうか。また、これは株式投資家(株式市場)にどのような影響を与えるのでしょうか。

「金融所得課税の見直し」とは何か

金融所得とは、株式や債券、投資信託などの金融商品から得られるキャピタルゲイン(資産の値上がり益)とインカムゲイン(資産の保有中に得られる利益)のことです。つまり「金融所得課税の見直し」とは、これらの税率を見直すということです。

現在の金融所得の税率はキャピタルゲインインカムゲインともに一律20%の分離課税ですが(別途0.315%の復興税がかかる)、報道によれば、これを引き上げることを検討するそうです。首相の口から具体的な数字の言及はありませんでしたが、岸田派の山本議員はブルームバーグのインタビューに対して「20%から25%程度への引き上げが適当だ」という考えを示したそうです。

根底にはあるのは「格差拡大」

確かに、金融所得の割合が多い一部の富裕層は低税率で所得を確保し、おおむね所得1億円を境に所得税の負担率が低くなる問題(いわゆる「1億円の壁」問題)は、各所で「格差拡大の要因」と指摘されています。

筆者個人の見解としては、金融所得の中心となっている株式は法人税を支払ったあとの利益を出資者に分配しているため、必ずしもこの指摘は適切ではないと考えていますが、マス層受けしやすいジャンルの話であり、成立する可能性はそれなりにあるのではないかと危惧しています。米国でバイデン大統領が富裕層課税を進めていることも、岸田首相を後押しするかもしれません。

「危惧」という表現を使ったのは、他の多くの金融市場関係者と同じく、金融所得課税の引き上げは株式市場に逆風を与えかねないと思っているからです。もちろん、岸田首相は「国家100年の計」の観点から、引き上げを検討するのかもしれません。中長期的には「あそこで引き上げておいて良かった」となるのかもしれません。

しかし、短期的には株式市場に大きな逆風となるでしょう。これまで支払う必要のなかった税金が発生するとなると、「じゃあ税率が引き上げる前に一旦売却しておこうか」と売り圧力が強まる可能性があるからです。

2013年末までは株式の金融所得は10%だった

実は2013年末までは、株式の金融所得は20%ではなく10%でした(正確には期間限定で10%に設定)。筆者はそのときはまだ野村證券の営業マンで、2013年末は大量のオーバーナイトのクロス取引を対応していたことをよく覚えています。オーバーナイトのクロス取引とは、含み益がある株式を税率10%のうち(2013年のうち)に売却し益出しして、翌日に同じ銘柄、株数を買い戻す作業です。その間に株価が大きく動かなければ、手数料を差し引いても、約10%分の税金が安くなります。

当時はアベノミクス全盛期で、金融所得課税の引き上げはあまり問題視されませんでした。多くの投資家が「来年も上がると思うし、翌日に同じ銘柄、株数を買い戻しておこう」という気持ちになったわけです。しかも、当時は「もともと20%だった税率に戻っただけ(減税が終了しただけ)」でした。

しかし、今回は単純に税負担が増える話ですし、当時のような「来年も上がるだろう」という前向きな機運はそこまで高くないでしょう。益出ししたら、「翌日に同じ銘柄、株数を買い戻しておこう」と考える人は、当時よりも減ってしまうはずです。

少なくとも短期的には、株式投資家にはネガティブな話

ここまで、岸田首相が言及した「金融所得課税の見直し」の内容と、それが株式投資家(株式市場)にどのような影響を与えるかについて解説してきました。実現するかどうかはまだ未定の話ですが、少なくとも短期的には、株式投資家にはネガティブな話ととらえて良いでしょう。今後の動向に注目が集まります。

文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部

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