これであなたも金融通 経済ニュースの読み方入門 第14回
最近、経済ニュースサイトや金融市場関係者のコメントでよく見かけるようになったのが「スタグフレーション」という言葉です。具体的には、スタグフレーションを心配する声が増えています。
21マスのうえで、4人のプレイヤーが動いている金融市場
まず、この連載を通じて「金融市場」と呼ばれるものの正体は、21マスのうえで、4人のプレイヤー(中央銀行、金融機関、機関投資家、個人投資家)によって行われるマネーの動きそのものと説明しています。21マスは以下の通りです。
米国 | 欧州 | 日本 | 中国 | 新興国 | |
---|---|---|---|---|---|
為替 | 1 | 5 | 9 | 13 | 17 |
債券 | 3 | 6 | 10 | 14 | 18 |
株式 | 3 | 7 | 11 | 15 | 19 |
不動産 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
商品 | 21 |
スタグフレーションとは
まず「スタグフレーション」とは何なのでしょうか。スタグフレーションとは、景気後退とインフレーションが同時進行する現象のことを指します。景気停滞を意味する「スタグネーション(Stagnation)」と「インフレーション(Iinflation)」を組み合わせた言葉です。
一般的に景気が後退すると、インフレ(モノの価値が上がること=お金の価値は下がる)ではなくデフレ(モノの価値が下がること)が起きますが、スタグフレーションが発生してしまうと、景気後退で賃金が上がりにくい(もしくは下がる)のに、物価は上がってしまうため、人々の生活は大変苦しくなります。
なぜスタグフレーションが起こるのか
それでは、なぜスタグフレーションが起こるのでしょうか。
主な原因として、商品価格の上昇が挙げられます。前述の21マスでいえば、21番のマスが急に大きくなるイメージです。商品には例えば、原油や天然ガスといったエネルギー価格、金やニッケルといった工業金属価格、トウモロコシや小麦といった食料価格などがあります。
本来であれば、インフレは企業業績を拡大させ、労働者への賃金上昇を通じて消費が活発化するため、景気にプラスと言われています。
しかし、商品価格は多くの企業にとって仕入れコストに直結しているため、商品価格が急激に上昇すると、「これらの商品を販売している企業の業績拡大」というメリットに比べて、「これらの商品を仕入れている企業の業績低迷」というデメリットのほうが大きくなってしまいます。
前者よりも後者のほうが、圧倒的に人数(社数)が多いためです。また、後者の企業は業績を維持するため、自社製品を値上げする場合もあります。これは最終消費者(私たちのことです)のお財布にダメージを与えます。
このように、商品価格の急上昇に伴うインフレはスタグフレーションを招いてしまう恐れがあります。このような原材料価格上昇に伴うインフレを「コストプッシュ・インフレ」と呼ぶ場合もあります。
足元ではインフレは発生しつつある
現在、金融市場では商品価格の上昇が続いています。鉄スクラップや銅スクラップなどで構成されたCRB原材料価格指数が10年半ぶりに最高値を更新したり、原油(WTI)が約7年ぶりの水準に上昇したり、食料価格指数が10年ぶりの水準になったりしています。
FRBが年内にもテーパリングを決定し、利上げへの道筋をつける予定であることもインフレ機運を醸成しています。
スタグフレーション成立の条件は「インフレの発生」と「景気後退」の2つです。前者は既に発生している、もしくは発生し始めていると言えますが、後者はまだ心配する必要はないでしょう。
したがって、現時点ではスタグフレーションがやってくるとは思えません。しかし、金融市場関係者が不安がっている事実は抑えておくべきです。スタグフレーションを理解して、経済ニュースを読み解いていきましょう。
(2021年11月2日公開記事)
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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