連載「お金の心理学」第9回 「所有欲」を狙うマーケティング
「無料でお試し」できるといわれ、「無料なら」と手に取る人は多いでしょう。また、有料だとしても「返品可」「返金保証」などのコピーがあれば、「気に入らなければ損をしない」と考えます。
しかし、ここには「所有欲」を見込んだ罠がひそんでいます。
見る人によってマグカップの値段が2.5倍になる?
同じ商品でも、見る人によって価値の感じ方は異なります。行動経済学の有名な実験を見てみましょう。
実験では、学生を2つのグループに分け、1つ目のグループには先にマグカップを渡し「いくらなら売ってもいいか?」と尋ねました。2つ目のグループにはマグカップを渡さず「いくらなら買ってもいいか?」と尋ねました。
一人ひとりの答えを平均したところ、1つ目のグループは7.12ドル、2つ目のグループは2.87ドルと答えました。マグカップを所有しているグループは、マグカップを所有していないグループと比べて、2.5倍も高い価値をマグカップに見出していたのです。
グループ | 質問 | 回答の平均額 |
---|---|---|
グループ1 | 「いくらなら売るか」 | 7.12ドル |
グループ2 | 「いくらなら買うか」 | 2.87ドル |
「失いたくない」という心理が所有欲をかき立てる
人間は、商品を手に入れると、手に入れる前より価値が上昇したように感じます。商品を手にすることで愛着がわいたり、商品を失うことで損をするように感じたりするからです。これを「保有効果」といいます。
断捨離を決意したものの、「売るのは難しいだろう」と思う古い洋服や本を、どうしても捨てられなかった経験はありませんか?「手放すと不便かも」「いつか読むかも」「思い出だから」といった心理が働き、持ち続けようとします。
実は、所有していない時より所有したあとのほうが、所有欲というのは強くなるのです。
安易な所有が散財につながっている?
手にすると価値が上昇して感じられる「保有効果」は、多くのマーケティングで活用されています。
「無料でお試し」「返品可」「返金保証」といったコピーでハードルを下げ、まずは消費者が商品を所有するよう仕向けます。そうすると、「保有効果」によって消費者にとっての商品の価値が自然と上昇します。愛着がわいたり、手放したくないという心理が働いたりして、消費者はつい商品を購入してしまうのです。
納得して購入するなら何も問題はありません。
しかし、中には散財につながってしまったり、買って後悔してしまったりするケースもあります。
自分にとって本当に価値があるかどうかを正確に見極めるためにも、「保有効果」を活用したマーケティング手法を見抜くことが大切です。無料や返金といった言葉に惑わされて安易に所有しないよう注意しましょう。
(2021年11月10日公開記事)
文・木崎 涼(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
画像・ayakono / stock.adobe.com
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