「お得な資産形成の制度」としてよく挙げられるのが「つみたてNISA」と「iDeCo」の2つです。どちらも税制優遇があり、お得な制度ですが、「どちらをより優先してやるべきか?」という議論は、意外なほど行われていません。
両方できれば良いのですが、「そこまで余裕はない」という家庭も多いでしょう。「つみたてNISAとiDeCoはどちらを先にやるべきか」について考えていきます。
なお、資産形成は各人によって状況が大きく異なるので、一般論で解説していきます。
流動性を重視して、つみたてNISAから始めるべき
結論から言えば、筆者は「いずれか一方を選ばないといけない家計状況の場合は、つみたてNISAから先に始めるべき」と考えています。その理由は「流動性」にあります。
つみたてNISAとiDeCoは同時に紹介されることが多いですが、管轄省庁は異なります。
つみたてNISAは金融庁が作った投資の制度であり、iDeCoは厚生労働省が作った年金の制度です。どちらも資産形成の方法であることは間違いないですが、究極的な目的は異なります。
そのうえで、流動性の違いについて見ていきましょう。iDeCoは60歳になるまで原則として引き出せないため、現役世代からすると「流動性はない」と言ってしまって良いでしょう。一方、つみたてNISAに積み立てている資金は、基本的にいつでも現金化できます。
流動性を重視する理由は、手元流動性を確保するということは、安心安全な生活を送るにおいて欠かせないからです。急な失業であったり、予期せぬ病気や怪我をしたりして収入が途絶えてしまう可能性はあります。手元にお金がないと、生活が成り立ちません。
iDeCo口座に何百万円と入っていても、原則としてそのお金を使うことはできません。そのため、一定の手元流動性は確保しておきましょう。
iDeCoを始めるタイミング
iDeCoは、つみたてNISAに投資しても家計が苦しくないタイミングで始めれば良いでしょう。たしかにiDeCoの所得税・住民税の軽減効果がありますが、所得が低いうちはそこまで大きなメリットにはなりません。
所得税・住民税の軽減効果が魅力的になる所得水準であれば、相当浪費家でない限り、つみたてNISAとiDeCoの両方を同時に行なっても問題ない場合が多いはずです。そのような所得水準であれば、そもそも「どちらを優先すべきか?」という議論が不要な場合が多いということです。
運用を始める前に、手取り月収3ヵ月分の貯金を
ただし、つみたてNISAであれば、手元の貯金がゼロでも始めて良いというわけではありません。元本が保証されていませんので、売りたい時に希望の価格で売れない可能性があります。
ただ、つみたてNISAは分散投資が効いている投資信託しか選べませんので、短期間で致命的な損失を被る可能性は低いと言えます。とはいえ、「売りたくないのに含み損状態で売らざるを得ない」という事態はなるべく避けたいものです。
運用を始める前には、手取り月収の3ヵ月分は現金(貯金)を用意しておきましょう。手取り月収が30万円であれば、普通預金の残高は90万円です。失業保険や高額療養費制度といった公的なセーフティーネットは、給付まで数ヵ月のタイムラグがあるため、現金が3ヵ月分あれば最低限の安心は確保できます。
手取り月収の3ヵ月分が貯まったら、つみたてNISAを始めて、それでも家計に余裕があれば、iDeCoに拠出するという流れが良いでしょう。
(2021年11月21日公開記事)
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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