連載「お金の心理学」第10回 過去への執着が判断を狂わせる
あなたが株を買うとしたら、次のうちどちらを選びますか?
1.株価が過去に8,000円だったこともあるが、値下がりして現在は5,000円の株
2.株価はここ最近ずっと横ばいで、現在5,000円の株
当然、これだけの情報では、どちらの株が優れているかを判断することはできません。ここでチェックしたいのは、この2つの株を見た時のあなた自身の心の動きです。
「過去に8,000円だったなら、5,000円の今は割安なのでは?」「5,000円の今買っておけば、8,000円に回復した時利益が出るのでは?」と考えて1.の株を買いたくなる人は、要注意です。
根拠のない「割安感」が投資へと駆り立てる
心理学では、直前の情報がアンカー/碇(いかり)のように頭に残りその後の判断に影響を及ぼすことを「アンカリング効果」と呼びます。
先ほどの二択問題だと、8,000円という過去の高値が頭に残っていると、5,000円という現在の株価が割安に感じられてしまいます。投資の世界ではこれを「高値覚え」ともいいます。
中には「今買わなければ損をするのでは?」「すぐに高値に戻り手が出せなくなるのでは?」と焦燥感に駆られ、あわてて投資に走ってしまう人もいます。
しかし、過去の高値が必ずしも企業価値に見合ったものとは限りません。現在の株価が割安なのではなく、過去の高値が割高だったという可能性も十分にあります。
過去の高値に引きずられて安易に割安と判断するのは危険です。
下落相場で傷口を広げてしまうことも
過去の高値は「買う」判断だけでなく「売る」判断にも影響を及ぼします。
過去の高値が頭に残った状態だと、購入後に株価が下落したとしても「待っていれば過去の高値まで回復するはず」と信じ込んでしまいがちです。下落相場で損切りのタイミングが遅れると、損失を広げることにもつながります。
幻想に惑わされず現在と将来を軸に投資判断を
「過去の高値まで必ず回復する」というのは思い込みであり、幻想に過ぎません。
アンカリング効果について知り、アンカーとなりそうな情報に触れた時は、アンカーに引きずられ過ぎないよう意識しましょう。たとえば、過去に極端な高値・安値をつけていた場合、その時の株価がアンカーになる可能性があります。
アンカーとなる情報に執着しすぎず、あくまで複合的な情報の1つと位置付けてください。現在の株価が企業価値に対して割安なのか、事業の将来性はあるのかといった点も踏まえながら、情報を組み合わせて投資価値を見極めることが大切です。
(2021年11月25日公開記事)
文・木崎 涼(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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