お金の悩みにFP(ファイナンシャルプランナー)が答える連載企画。今回は、フリーランス転身を考える40代会社員からのご相談です。実際にフリーになった場合、自分でどのような備えが必要なのか知りたいとのこと。相談者の事例をもとに、フリーランスに転身したらやっておくべきお金のことについて解説します。
回答者・武藤貴子(ファイナンシャル・プランナー)
マネーコラムの執筆、情報発信を中心に活動するFP(AFP)、金融ライター。会社員時代の経験から、副業や起業に関するアドバイスも行う。投資や在宅でできるネット副業に詳しい。著書に『いちばん稼ぎやすい簡単ブログ副業』(河出書房新社)がある。
相談 フリーになりたい会社員。保障が心配。今のうちにすべきことは?
「現在会社員だが、以前から、フリーで働くことを考えている。ただ、会社員でなくなると年金や社会保障などが心配。フリーランスになったら、何をしておくべきか」
相談者プロフィール
夫 43歳 正社員 年収580万円(うちボーナス100万円)
妻 43歳 正社員 年収320万円(うちボーナス50万円)
長男 10歳
共働きの妻、長男と郊外の戸建てに3人暮らし。貯金は約800万円。夫は現職のスキルや人脈を生かし、近いうちにフリーランスに転身したいと考えている。手取り収入は今より多くなる見込みだが、会社員ではなくなることで、将来の年金や社会保障に不安がある。
1ヵ月の家計簿 | |
---|---|
収入 | 金額 |
夫の手取り月収 | 30万円 |
妻の手取り月収 | 17万円 |
児童手当 | 1万円 |
収入合計 | 48万円 |
支出 | 金額 |
---|---|
住居費(住宅ローン返済) | 12万円 |
食費 | 7万5000円 |
通信費(自宅Wi-Fi+スマホ3人) | 2万5000円 |
水道光熱費 | 2万1000円 |
子ども費(習い事含む) | 1万5000円 |
死亡保険(夫) | 2万6000円 |
医療保険(夫婦) | 4000円 |
がん保険(妻) | 3600円 |
学資保険 | 1万円 |
小遣い(夫婦) | 5万円 |
その他(日用品・被服・美容・レジャー等) | 3万円 |
支出合計 | 37万9,600円 |
武藤さんの4つのアドバイス
1 会社に任せられないフリーならではの老後資金対策をしよう
2 退職金として小規模企業共済も検討をしよう
3 働けなくなった時のリスクに備えておこう
4 収入保障保険を併用し、夫の死亡保障を手厚くしよう
アドバイス1 会社に任せられないフリーならではの老後資金対策をしよう
国民年金第1号被保険者になると年金が手薄になる
会社員からフリーランスになると、将来の老後資金が気がかりに。厚生年金に加入する会社員に比べ、国民年金第1号被保険者であるフリーランスは、年金が手薄になるためです。
厚生労働省の「日本の公的年金は『2階建て』」によると、厚生年金に40年間加入して、その期間の平均収入(月額換算した賞与含む)が43.9万円だった場合、2021年度は月額約15.5万円の年金を受給できます。
一方、20歳から60歳までの40年間、全ての保険料を納付していた国民年金の加入者は、2021年度は、月額6.5万円を受給しています。厚生年金加入者と比べると、フリーランスは月額9万円も少なくなる計算です。
現在、相談者は厚生年金に加入していますが、今後フリーランスになるなら、将来の年金が少なくなることを考慮しなければなりません。老後に向けた積立などもしていないため、対策を取る必要があります。
フリーランスなら国民年金基金やイデコを検討しよう
フリーランスが国民年金にプラスして備えるなら、「国民年金基金」や「イデコ」を検討してみてはどうでしょうか。
・国民年金基金──国民年金に上乗せ
国民年金に上乗せする年金で、フリーランスや個人事業主など、第1号被保険者のみ加入が可能です。掛金が全額所得控除になるため、節税のために活用できます。掛金額は、選択した給付の型や加入口数、加入時の年齢、性別などによって決まり、上限は月額6万8,000円です(イデコにも加入している場合、その掛金と合わせて6万8,000円)。
国民年金基金は、将来受け取る金額が確定しています。また、終身年金であるため、死ぬまで支払いを受けられます。ただし、一度加入すると、基本的には自己都合でやめることはできません。
・イデコ(iDeCo,個人型確定拠出年金)──1000円刻みで投資額を決定
自分で選んだ金融商品を運用し、60歳以降に受け取るタイプの年金です。フリーランスの場合、掛金月額は5,000円から6万8,000円まで、1,000円刻みで好きな金額に設定可能です。
イデコも、国民年金基金と同様に、税制優遇を受け取ることができます。掛金は全額所得控除となり、運用期間中の運用益は非課税、そして、満期時も、受け取った金額は控除の対象となります。ただし、将来受け取る金額は確定しておらず、給付額は商品の運用成績次第となる点には注意が必要です。
フリーランスになったら、こうした制度を活用して自分でプラスの年金を積み立てていきましょう。毎月いくらの掛金を拠出すればいいのか悩んだら、まずは、会社員時代の厚生年金保険料を目安にします。相談者の場合、現状では毎月約75,000円の厚生年金保険料(その半分は会社負担)を支払っていますので、年金のためにトータルでこれと同額を支払うつもりで備えておくと安心です。
アドバイス2 退職金として小規模企業共済も検討をしよう
もう一つ検討したいのは、フリーランスの退職金制度である「小規模企業共済」です。これは、廃業した時などのために積立ができる共済制度で、小規模企業の役員や個人事業主、フリーランスなどが利用可能です。
掛金月額は1,000円から7万円まで500円ずつ設定でき、掛金額や加入期間に応じて共済金額を受け取ることができます。また、掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、節税メリットがあります。
まずは、国民年金基金やイデコで「自分年金作り」をしておく。そのうえで、退職金も必要と感じれば、年金とのバランスを見ながら、共済での積立もしていきましょう。
アドバイス3 働けなくなった時のリスクに備えておこう
フリーランスになると、会社員の時には受けられた多くの保障(補償)が対象外となります。そのうちの一つが、就業不能となった時の補償です。会社員の場合、病気やケガで働けなくても、被用者保険から「傷病手当金」が、または、労災保険から「休業補償給付金」が支給されますので、全くの無収入にはなりません。
一方、フリーランスは傷病手当金がもらえませんので、病気やケガによる医療費がかかるうえ、休んだ分の収入が減る恐れがあります。そうした事態に備えるためには、「就業不能保険」の加入を検討しましょう。これは、病気やケガで一定期間以上働けなくなった場合、毎月保険金が支払われる保険です。
就業不能保険に加入すれば、新たに保険料がかかってしまいますが、傷病手当金のないフリーランスは真剣に加入を考えるべき保険の一つです。ただし、保険料は比較的安く済みます。たとえば、あるネット生保では、相談者の場合、月約3,500円の保険料で、指定の傷病や障害となった時には毎月10万円が受け取れます(掛け捨て、免責期間60日、保険期間65歳まで)。
アドバイス4 収入保障保険を併用し、夫の死亡保障を手厚くしよう
また、フリーランスは、遺族年金の受給額が少なくなるため、死亡保障を多く設定しておく必要があります。相談者は現在も死亡保険には加入していますが、これを見直したうえで、あわせて「収入保障保険」に加入し備えておくとよいでしょう。
収入保障保険は、被保険者が死亡・高度障害状態になった時、毎月一定額の保険金が保険期間の満了まで支払われる保険で、残された家族の生活費のように、長期間にわたって支払う必要のある費用をカバーするのに適しています。これなら、一括で支払われる死亡保険金は葬儀代や子どもの進学資金に、毎月支払われる収入保障保険の保険金は生活費に、と異なる費用をどちらも補うことができます。
独立したら自分でしっかり備えを
フリーランスになると、会社員の時には知らぬ間に天引きされていた分の年金や保険を、自分の責任で備えなければいけなくなります。そのため、たとえ収入が増えても、「出ていくお金が多い」と感じるかもしれません。会社を独立するなら、あらかじめそうした事実もしっかり把握しておくことが大切です。
文・武藤貴子(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
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