前編では、「お金の教育」においても公教育と民間教育でできること、求められることが違うという話のほか、4月に高校の家庭科で始まる資産形成の授業について議論が交わされた。後編では、二人が発信者として気をつけていることや、子供の「お金のリテラシー」を上げるために親が家庭でできることなどについて語り合ってもらった。(構成・濱田 優/撮影・森口新太郎)
文芸が発展したのは評論家がいたから。「お金の専門家」にも評論家が必要
──横川さんが代表を務めてらっしゃる日本金融教育推進協会は、3月末のグローバルマネーウィークで、「マネーエンパワー」と題して、お金について学んだり考えたりするイベントを開かれました。協会にはどんな方が参加しているんですか?
横川 理事は金融教育を行う企業やNPO、学生などで構成されています。教育というのはビジネスだけで構成されるべきではないと思い、営利企業だけでなく、NPOや学生などさまざまな属性の人に入ってもらう点はこだわりましたね。
山田 金融にしても教育にしても考えが違うので、参加者がいろいろだと大変じゃないですか?
横川 イメージとしてはFintech協会さんやシェアリングエコノミー協会さんの金融教育バージョンなんです。Fintech協会さんにも、銀行、保険、資産運用、不動産、暗号資産などいろいろな事業を行う企業が入っているんですね。
(日本金融教育推進協会の)会員さんには貯金アプリを提供している企業もいれば、バーチャル株投資ゲームを提供している企業もいたり、業種はさまざまですが、皆さん、貯蓄や投資をはじめお金についての知識をもっとつけて欲しいと思っていらっしゃる。そういう「金融リテラシーを普及したい」と思っていらっしゃる方であれば、どなたでも参加してもらいたいと思っています。
──なぜその団体をつくろうと思われたんですか?
横川 私が「お金の専門家」として活動を始めてまだ7年なんですが、活動を始めた当初は、仲間がいなくて悩んでいたんです。でもSNSでのインフルエンサーや金融教育ベンチャーも増えてきたりと、ここ3年くらいでお金の教育が注目されだして、お金の知識を普及したいと思っている人がすごく増えたように感じています。そういう思いを持っている方たちと連携して、より金融教育を普及していくための大きなムーブメントができたらいいなと思ったのが経緯です。
“THE金融”の企業・団体だけではなく、より新しい価値観の企業や人も含め、金融リテラシーを普及したいという共通認識のもと団結して、公教育の整備を進めるための政策提言なども行いながら、若い世代が求めている身近な学びと今の金融教育との間のギャップを埋めたいなと。
あとは、増えてきている「お金のコンテンツ・ヒト」についても、どれがいいものなのか、怪しい人が発信していないか、リテラシーを受け取る側が本当に正しい金融リテラシーが提供されているのか判断できるようにするための基準も整理したいと思っています。
山田 それって政治と一緒で、金融・投資の考え方も人それぞれで、保守の人もいればリベラルな人もいます。
これは誰かがやっているのかもしれないですけど、その点を誰かに整理してほしい。政治の世界なら自民党があって、維新の会があって、立憲民主党があって……それぞれスタンスや政策がどう違うかマッピングできます。
それをお金の世界でもやって欲しい。経済評論家の山崎元さんはこういうことを言っている、厚切りジェイソンさんはこんなスタンス。高橋ダンさんはこう。ロバートキヨサキさんと橘玲さんはこう違う……お金のことについて発信している著名人のポジションを整理して欲しい。
──あぁ、それはメディアがやらないといけないですね。
山田 メディアの役割でもありますね。文芸が発展しているのは文芸評論家がいるからです。評論家がいるので、作家や作品の立ち位置とかの流れが分かる。
お金の世界もこうやって発言する専門家が増えてきているので、評論家が欲しい。お金の専門家についての評論家。dメニューマネーさん、ZUUさんにやって欲しい。
別にその人がいいか悪いかを判断して教えて欲しいというわけじゃない。思想・考え方が違うだけだから。「自分はこの人の考え方がしっくりくるなあ」っていう人が、みんなそれぞれ違うはずです。それぞれの人に合った“正解の人”を見つければいい。それが民主主義であり、「お金の民主主義」。 そういうことだと思います。
横川 そこにも、基礎的なお金のリテラシーが必要になってくるかなと思います。自分で比較するリテラシーがないと、発言が正しいかどうかの判断もできず、信じてだまされちゃう人もいるんですよね。
FPも、級を取ったというだけで実務経験もなくファイナンシャルプランナーをすぐ名乗る人もいるというのは、ちょっと危険だなと思っていて。その人がきちんとしたリテラシーを提供できる人なのか分からない。そういった意味で、人に対する基準も必要だと思っています。
──発信者としてお二人が気をつけていること、これが気を付けたいことをやりたいことはありますか?
山田 僕のYouTubeチャンネルのコンセプトは、国の制度をざっくり分かりやすく説明することです。たとえば国とか業界団体が制度を説明しようとすると、どうしても100%カバーしなきゃいけない、間違いなく伝えないといけないから、難しくならざるを得ないんです。
だからそこを「ざっくりこうです」と分かりやすく言っちゃえるのが僕のチャンネルの強みです。具体例で言うと、たとえば証券業界とかでは、配当利回りと預金の金利って比較できないことになっているんです。別物だから。
だけど僕のYouTuberならできる。そういう細かい規制はいっぱいあるんですよ。ただ、国の説明をそのまんま流しているYouTuberもいるから、「 無駄なことをしてるなぁ」とは思いますけどね(笑)。
横川 私はいかにフラットであるかということです。特定の商品を押したりせず、あくまで知識の提供に徹しています。
メディアをはじめSNSでも、基礎知識から提供するよう心がけています。Youtubeも、自由に自分の発言をできるツールの一つですよね。
山田 まぁ自由に言える、つまり偏っているとも言えますから、やっぱり「どれだけ偏っているのか」が分かるよう、メディアが整理するか、教科書のようなものが早くできるといいなと。
ベースがあるとどれだけズレてるか分かるし、まずは「教科書」という軸、フラットな、プレーンなモノが必要だと思います。そもそもプレーンなものがないとトッピングが 楽しめないし、そしてトッピングがたくさん、バラエティ豊かにならないとその業界は発展しない。うどんも、“かけ”だけだったらここまで広まってないでしょうからね。
今の大人が若かった昔よりも、今が、そして未来のほうが厳しい
──コロナでキャッシュレス決済も広まったし、生活様式が様変わりしました。何かここ数年の変化で象徴的だと思うことはありますか?
横川 学生さんでいえば、「バイトができなくなってお金に困るようになった」という子が多かった印象があります。生活の、お金の危機に直面して「だからこそお金の知識をつけなきゃ」っていう方が増え、若い世代でもつみたてNISAに興味を持ったり、きちんと家計簿アプリをつけてみるといった子も増えましたね。
山田 つみたてNISAをやる人がめちゃくちゃ増えたことですね。「みんな意外と堅実なんだな」って思いました。若い人中心にiDeCo始める人も増えていて。
そこで思うのは、お得な制度があれば、人は参加するんだなということ。僕はiDeCoは7〜8年前、周りにやっている人がほぼいな時から始めているし、NISAもふるさと納税も初年度からやっています。みんなお得なことが好きなのかなと思うのと、それ以上に「損するのが嫌」なのかなとも思いますね。銀行の金利が低いですからね。
僕は今年46歳になる、ひろゆきさんと同い年なんです。彼の本にもありましたが、 “上の世代”はバブルも経験しているし、あまり何も考えてないでこれた。でも僕らとか今40代後半の人は就職氷河期で就職から大変だったし、(経済成長も停滞しているので老後を考えた)投資とか運用も大変で、僕らより“下の世代”はもっと大変になる。
この記事をご覧の親御さんたちに言いたいのは、少なくとも今の子供達は、自分たちが生きてきた時代よりももっと金利が低い時代を生きるということ。だから子供のことを思うと、本当に真剣に、金融教育を考えないといけないということを伝えたい。世代ギャップは思っている以上に大きい。自分の息子、娘たちの将来は大変なことになる、自分達の様に上手くいくとはホント限らないんですと。
──親にそういうギャップの認識がないと、それこそ就職活動する子供に、自分が就活した時の人気企業を勧めちゃったりするんですよね。
山田 そうです。僕の頃の人気就職先は、銀行とか大手旅行代理店とかでした……。
横川 大学生で、親に「つみたてNISAを始めるのを反対された」という子や、「マイナンバーカードを作るのを反対された」っていう子もいました。親がどうしてもお金の話をすることにネガティブだったり、新しい制度は良くないみたいと決めつけてしまったりしていることもある。でも若い子たちも、知識をつけた上で自分自身で判断することだってできます。
親世代も、新しい制度のことをちゃんと知って、なんでも決めつけて「NO」と言わずに価値観をアップデートする柔軟性が必要ですね。
山田 時代が変わると高校や大学の偏差値も変わるように、金融の業界も変わっています。 昔はファンドの数もそんなになかったし、手数料もまだ1%以上が当たり前だった。つまり理科や社会科はそう大きくは変わらないけど、金融は一番動く業界だから、時代によって大きく変わっているんですよね。
奨学金だって、昔はインフレだったから返済もそんなに負担じゃなかったかもしれないけど、今はデフレでただただ負担が重くなってますから。
横川 それこそ私たち世代の子供たちが 大学生になるくらいには、今より奨学金が必要な子がもっと増えるでしょうから……。
「お金がいくら必要で、何に使いたいか」は「自分はどう生きたいか」ということ
──時代が大きく変わってきている中で、何もしないと暗い未来が待っているかもしれませんが、前向きな、明るい話題でしめくくりたいなと。
山田 僕の学生時代と比べると、今はローコストで本当に生きやすい時代だなと思いますね。生活だけでなく、オタ活の話をすると、グッズを買おうと思ったら僕は自宅の神戸から大阪・日本橋とかに行かなきゃいけなかったし、映画館も少ないから遠くに遠征してました。
でも今はそれこそdアニメストアを契約していれば、たいていのアニメが見られます。 DVD借りたり映画館に行ったりしなくてもいいし、情報もだいたいネットから入ってくる。僕はずっと『月刊ニュータイプ』(KADOKAWA)と『アニメディア』(学研)を買っていて、毎月、情報を得るためだけに1000円以上払っていましたから。
今ってローコストで楽しめちゃう時代なので、ローコストで趣味を見つけて、あとは稼げる業界に行って仕事をすれば大丈夫だと思います。でも、いろんな情報があるせいで、かえって稼げない業界に行ったり、変にブラック企業入っちゃったりすると大変なことになる。僕なんか、会計士していますが、会計はいまだに好きじゃないですからね(笑)。稼げるから勉強してやっているだけ。
金融教育って、どう消費するか、どう投資するかっていう話なんですけど、一番身近で大切なのは「どこで働くか」だと思うんです。仕事と趣味さえ固まれば、あとはなんとかなる。結局お金のことをコントロールができるようになるのが金融教育のゴールだと思います。
横川 何にお金を使いたいかというのは、本当に人それぞれだと思うんです。趣味にお金をかけたい人もいれば、家にかけたい人もいるでしょう。家族の在り方なども多様化していますし、自分がどうお金を使っていくかは、どう生きたいか、何を楽しみたいかでも大きく変わってきます。自分の叶えたい人生を歩んでいくためにも、お金と向き合い、資産形成をしていく必要があります。
そのためにまずつけるべきなのはお金に関する基礎知識。公教育では、自分に必要なものを考える上で必要な基礎の知識をつけられるようになって欲しいです。お金の知識が増えることで取れる選択肢も増え、人生の可能性も広がります。
そして、親御さんには子供さんとぜひお金の話をしてほしい。私は母子家庭だったのですが、 母親がお金の話を比較的包み隠さずする人だったので、自分もお金の話をすることへの抵抗感は少なくなっていったように思います。
たとえば「いわれるがまま契約をしてしまったけど、本当に大丈夫かな」「クレジットカード使いすぎてしまったけどお金どうしよう」なんてとき、友人には相談しづらい。そういったときに、家族に気兼ねなくお金の相談ができるということって、すごく大切だと思うんです。
4月に成人年齢が18歳になることもあり、早いうちからお金のトラブルに巻き込まれる可能性が高くなります。そういうトラブルに巻き込まれないように、そして、子供が人生の選択肢を増やせるように、気軽にお金の話をできる家庭づくりこそが、今すぐできる大切な金融教育だと思います。
プロフィール
やまだ・しんや/公認会計士、税理士、作家、YouTuber。『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫)『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?~身近な疑問からはじめる会計学~』 (光文社新書)など著書多数。
登録者数40万人「オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する」
よこかわ・かえで/やさしいお金の専門家、金融教育活動家、一般社団法人日本金融教育推進協会代表理事。著書に『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)がある。TV・ラジオなどのメディア出演も多数。
やさしいお金の専門家 横川楓(公式サイト) | Twitter
構成/編集・濱田 優(dメニューマネー編集長)
写真・森口新太郎
(2022年4月9日公開記事)
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