コロナウイルスの感染拡大で、日常生活や勤務スタイルだけではなく、ニュース番組も作り方の変更を余儀なくされている。経営者や識者をスタジオに招いて生の声を聴くことにこだわっている朝のニュース番組「日経モーニングプラスFT」は、コロナ禍でもリモートでの取材・出演に切り替え、情報の質と量を落とすことなく、平日の朝7時から毎日放送している。
インタビュー・前編では、メインキャスターの八木ひとみ氏と解説委員の豊嶋広氏に、日経、FTという大きな看板を背負い、“朝のゴールデンタイム”である7時台に放送するニュース番組づくりをする上で大切にしていることなどを聴いた。後編の今回は、投資に関する情報があふれる中でテレビが果たすべき役割、「日経モーニングプラスFT」としての責任、コロナ禍収束した後に番組としてやりたいことのほか、初心者やマンガ好きなら注目したいコーナーについても聴いた(聞き手:濱田 優・dメニューマネー編集長/写真:森口新太郎)。
インタビュー・後編
豊嶋 広(としま・ひろし) BSテレ東解説委員 キャスター/1986年日本経済新聞社入社。編集局商品部、東京経済部、金融部、日経CNBC、電子編集本部などで勤務し、2016年4月から現職。17年4月から「日経モーニングプラスFT」を担当。
八木ひとみ(やぎ・ひとみ) メインキャスター/2008年YAB山口朝日放送入社(アナウンサー)。TBSニュースバード、日経CNBC、NHK BS1などでキャスターを務めた。2018年3月より「日経モーニングプラスFT」を担当。
日経とFTのブランド・情報をフル活用できる強み
──今はYouTubeなどでいろんな方が投資や金融の情報を発信していて、インフルエンサーの影響で投資を始めた方もいます。そうした中でテレビが、番組が果たすべき役割とは?
豊嶋 情報があふれすぎて、投資を始める方がたくさんいても、ひどい目に遭って退場される方も多いのではないでしょうか。大事なのは、信頼できる情報をどこで手に入れるかです。「貯蓄から投資・資産形成へ」とずっと言われていますが、なかなか実現していませんよね。個人投資家に必要なのは成功体験で、我々は水先案内人の役回りをしなければいけない。
八木 たしかにSNSで発信が簡単になって、金融の情報へのアクセスもしやすくなっていると思います。ただ金融や投資のロジックや仕組みを説明するだけでなく、具体的な銘柄を紹介されている方もいらっしゃいます。それを見た方が、参考にして自分で考えて投資するならともかく、考えずにパッとそこに飛びついて、結局、大損してしまうというケースもあると思うんですね。
日経の力、FTのブランドのある我々のような番組は、「これを見ておけば間違いないよね」というような存在になれるし、なりたいと思っています。
豊嶋 僕自身は立場上、株式投資はできないのですが、おいしい話は世の中ゴロゴロ転がっているものではありません。
ただ成功体験は絶対に必要です。そうでないと 貯蓄のお金が投資に回ることなんてない。アメリカがうまくいっているのは、株がずっと上がっているからです。これに対して日本は日経平均が1989 年の38,915円からもう何十年も最高値を更新できていない現実があるわけです。
とはいえ、どんなに難しい局面でも、小さな成功を積み重ねることは可能だと思います。そのための材料、参考情報としてのファクトをしっかり伝えていきたい。
──FTというブランドはビジネスパーソンにも、経験値のある投資家にも絶大なものがあります。
八木 日本の新聞が取り上げていることと、世界で話題になっていることは必ずしも同じではありません。そうした中でFTから海外の視点を共有できること、FTが取り上げたニュースを発信できることは我々の強みの一つです。
豊嶋 FTは英語メディアなので、日常的に継続して読みこなしていらっしゃる方は限られます。そこで我々が取り上げる意味がある。 名は体を現すといいますが、番組名(日経モーニングプラスFT)に日経、FT両方ついています。長くてカタイイメージかもしれませんが、日経とFTの情報・アセットをフル活用できるメリットが我々にはあるということです。
「視聴者と直接対話するタウンミーティングをやりたい」
──今は株価も下がり、円安が進み、物価が上がっています。投資意欲が下がっている初心者投資家も多いのではないでしょうか。
豊嶋 投資は細々とでもずっと続けることが大事といわれます。「知り合いが買っているから」という理由で、米株に投資した人も少なくないでしょう。
ただ自分の大事なお金を投資する以上、自分で考えて決めて欲しい。そういう人が一人でも増やしたい。小さくていいので成功体験を得て、それを積み重ねていってもらいたい。
八木 高校の家庭科で投資信託について触れられるようになるなど、金融教育、投資教育が注目されています。ご家族で私たちの番組見てもらえたらいいなと思っていますね。
実は、20代前半の番組スタッフが、学生時代に番組を見てくれていたらしいんです。学生の視聴者がいるという点に、投資が若い人の間でも身近になってきていることを実感します。そう考えると、正確なだけでなく、分かりやすく情報を伝え続けることがとても重要だと、あらためて身が引き締まる思いです。
豊嶋 時代の変化というか、若い世代の投資についての考え方が変わってきていると感じたことがあります。ある米系証券のアナリストにスタジオでESG投資の話をしてもらったんですが、その人いわく、証券会社の入社面接で、環境や人権意識を社会に広めたいという若者がいるらしいんです。もちろん「お金を稼ぎたい!」という人もいるものの、Z世代ではそういう考え方が広がっている。時代は変わっているんです。
──これからやりたいことはありますか?
豊嶋 コロナで企画が中断していますが、タウンミーティングはやりたいですね。基本的に一方向のテレビというメディアを補完すべく、視聴者、消費者の声を聞く機会をつくりたい。
八木 SNSももっと力を入れたいですね。経済番組って、自分のキャラクターを出す機会がとても少ないので、SNSで親しみを持っていただきたい。実は豊嶋さん、経済の話しかしない人じゃないですしね(笑)。
Twitterなどで、4月クールから始めた「デイリー市場ランキング」を流しています。データはミンカブさん(ミンカブ・ジ・インフォノイド <4436> )から提供してもらい、気になるテーマや業種、投資信託の運用の種類などにスポットを当て、どんな株や投信が動いているのか、投資指標から見て魅力度が高いものを探るランキングです。
経済・お金にからんだ漫画を紹介するコーナーもある
──SNSで番組の一部を配信するのは、視聴者としても見たいところだけ見られていいですね。
八木 我々の番組はニュースだけでなく特集や企業トップのインタビューもあるので、後日見ていただいても参考にしていただけるコンテンツがたくさんあります。早起きできなくてもSNSや、動画配信サービス「ネットもテレ東」で見ていただきたい。
豊嶋 そういう意味では「マンガで学ぶシリーズ」なんかは面白いと思います。日経にマネー編集チーム副チームリーダーの大口克人さんという漫画に詳しい方がいて、経済やお金にからんだ漫画を紹介しています。
八木 私も漫画が好きということもあるんですが、経済関係とか言いながら、『カイジ』とか紹介しています(笑)。投資家として、勝負に挑む時の人間の心理とか、お金の本質とはといった話がありますから。
ほかには『こづかい万歳』(『定額制夫の「こづかい万歳」〜月額2万数千円の金欠ライフ〜』。毎月2万千円のこづかいでやりくりする漫画家・吉本浩二(46歳)が描く、ほぼノンフィクションこづかいマンガ)とか、ドラマにもなった『正直不動産』なんかを話題になる前に紹介しました。
バラエティ番組のようにとまではいかないですが、とっつきやすいコンテンツも実はたくさんあります。漫画家のインタビューで、放送では出せなかった部分を配信もしていたりするので、ご覧になっていただきたいですね。
──ニュース番組でカイジ紹介したら、お茶の間が「ざわ…」としそうですね(笑)。ありがとうございました。
取材/文・濱田 優(dメニューマネー編集長)
編集・dメニューマネー編集部
写真・森口新太郎
【関連記事】
・6月に届く「年金振込通知書」 捨てちゃいけない3つの場合
・初心者向け!ネット証券オススメランキング(外部)
・新たに10万円!「住民税がかからない世帯」の救済制度
・SBI証券と楽天証券どちらで開設する?(外部)
・加給年金が支給停止になる2つのケース