今では世界中のニュースをほぼリアルタイムで読むことができますが、金融や経済のニュースは難しい言葉も多く、「結局このニュースを資産運用にどう活かせば良いのか分からない……」という人も多いでしょう。
本連載では資産運用初心者向けに、経済ニュースをどのように読み解いていけば良いか解説していきます。
21マスのうえで、4人のプレイヤーが動いている金融市場
この連載を通じて「金融市場」と呼ばれるものの正体は、21マスのうえで、4人のプレイヤー(中央銀行、金融機関、機関投資家、個人投資家)によって行われるマネーの動きそのものと説明しています。21マスは以下の通りです。
米国 | 欧州 | 日本 | 中国 | 新興国 | |
---|---|---|---|---|---|
為替 | 1 | 5 | 9 | 13 | 17 |
債券 | 3 | 6 | 10 | 14 | 18 |
株式 | 3 | 7 | 11 | 15 | 19 |
不動産 | 4 | 8 | 12 | 16 | 20 |
商品 | 21 |
前回(第8回)では、「なぜ中央銀行はインフレを起こしたがっているのか」について解説しました。しかし、日本ではなかなかインフレが起こっていません。インフレ指標とも言える消費者物価指数(CPI)の総合指数は、2015年を100として、2021年6月時点で101.9です。
6年間で約2ポイントの上昇ですから、ほとんどインフレは起きていないと言えるでしょう。極めて優秀な人たちの叡智を結集して、日銀が金融政策を行っているのに、なぜ日本ではインフレが起きないのでしょうか。
なぜ日本ではインフレが起きないのか
これはおそらく黒田日銀総裁も頭を抱えている難題で、大変壮大なテーマです。一介のファイナンシャル・プランナーが偉そうにコメントできることではないかもしれません。しかし、今回はあえて考察していくことにしましょう。
インフレとは、モノの価値が上がり、お金の価値が下がる現象です。モノの価値が上がるためには、消費(需要)が活発になり、「みんながモノを欲しい」と思う状況を作り出す必要があります。
それでは、どのようなときに消費が活発になるのでしょうか。一般的には、家計に余裕があり、今後収入が増えていく、少なくとも今の収入が今後も安定して続く、という余裕や安心感があるときでしょう。つまり、インフレとは「明日は今日よりも良くなる」という楽観主義者が多くなると発生しやすいと言えます。
日本人の国民性として、「倹約が美徳」の精神が根付いていることも若干関係しているのかもしれません。しかし、昭和の高度経済成長期は、日本にも確かにインフレが起こっていました。
インフレが起こらない理由として真っ先に思いつくのが、少子高齢化が進み、経済のパイが縮小する日本においては将来不安が根強く、手元にお金を確保しておきたいという「デフレマインド」でしょう。このデフレマインドを払拭するため、黒田日銀は過去例を見ない大規模な質的量的緩和を行ったり、金利をマイナス圏まで深掘ったりしているわけです。
テクノロジーの発展が原因という指摘もある
もうひとつチラホラと指摘されているのが、テクノロジーの発展により、労働者の雇用が奪われたり、賃金が押し下げられたりして、消費を抑制しているということです。
例えば、Amazonの登場でショッピング利用者は非常に便利になりましたが、多くの本屋さんが潰れたことは周知の事実です。また、AmazonのようなITサービスは、一部のエリートがサイト運営して、大量の低賃金配送者がいれば成り立ってしまいます。
この指摘が適切かどうかはもう少し検証が必要ですが、今後AIが発達すれば、この傾向はさらに強まる懸念があります。
「黒田日銀の動向がクローズアップされないこと」の意味
この連載を通じて「中央銀行は特別なプレイヤー」と言い続けてきましたが、黒田日銀の動向に関するニュースは、以前よりも存在感(メディアでの取り上げられ方)が弱まっています。
一時期は、世界中が黒田総裁の一挙手一投足を見守る時代がありました。しかし今は、「もう日本(日銀)がインフレを起こすのは難しい」という諦めムードにも似た雰囲気が市場関係者の間に漂っている印象を受けます。
資産運用初心者においては、日銀のニュースを読むときは、「日銀はこのような苦境に立たされている」ということを理解したうえで経済ニュースを読むようにして下さい。言い換えれば今後、黒田日銀が強くクローズアップされたときは、市場関係者を驚かせるような「何か大きな変化」が起こったと見なすべきです。
「黒田日銀の動向が経済ニュースでクローズアップされないこと」自体が、「引き続き日本のインフレが進んでいないこと」のニュースであるのです。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)
編集・dメニューマネー編集部
(2021年8月23日公開記事)
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